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欧州企業、経済面での中国重視は変わらず-在欧専門家に聞く
欧州が直面するビジネス環境の変化と中国・同企業の動向(8)

2021年3月25日

欧州企業にとって、中国は市場としての重要性が年々増す一方、中国企業による国家の安全を揺るがしかねない欧州企業の買収や、公正な競争環境の侵犯、人権問題など、対中関係において政治・経済の両面で、懸念が高まりつつある。こうした問題を欧州やドイツはどのように受け止めているのか。また、今後批准に向けた手続きが進められるEU・中国包括的投資協定(CAI)や東アジアにおける地域的な包括的経済連携(RCEP)協定について、欧州側はどのように評価しているのだろうか。ベルリンに本拠を置くシンクタンクで、同分野におけるオピニオンリーダーの1つであるメルカトル中国研究所(MERICS)のマックス・J・ツェングライン・チーフエコノミストに聞いた(2021年2月4日)。


マックス・J・ツェングライン・チーフエコノミスト(同氏提供)

経済界の中国での事業環境改善を望む声が、包括的投資協定(CAI)の合意後押し

質問:
2020年12月30日に原則合意したと発表された包括的投資協定(CAI)について、EU側の狙いと意義について、どのように考えるか。
答え:
EUの狙いは主に3つある。1つ目は、公正な競争条件(level playing field)の確保。投資協定により、国有企業への補助金の透明性の確保や、技術移転条件など、公平な競争を歪め、欧州企業に不利となっている規制環境を改善することが狙いだ。特に、国有企業への優遇措置の是正、透明性の確保を重視していると見ている。2つ目は、EUにとって重要性が増している持続可能性の改善だ。特に、環境保護や労働環境の改善に注目が集まる。3つ目は、国外企業、特に欧州企業への中国市場の開放だ。これらの狙い以外にも、世界各地で分断(デカップリング)が発生する困難な状況においても、EUが、重要な経済パートナーと協定の締結が可能であるという合図を送るという意図もあったと思われる。
今回の合意には、ドイツがEU議長国である間に合意に持ち込みたかった政治的意図が大きく働いた。自動車、化学業界など、中国における事業環境の改善を求める経済界の圧力も今回の合意に大きく影響した。フランスが合意の取り付け支持に加わったことにより、中国側が極めて限定的ではあるものの医療分野で譲歩したと見ている。香港や新疆ウイグル自治区、オーストラリアの対中関係悪化などの問題を考えれば、このタイミングでの合意は必ずしも最善とは言えないが、EUは原則合意を優先した。メルケル政権の中国関係を重視する姿勢が反映されている。
中国は今回の協定で対話に応じる姿勢を示した。しかし、実際には複雑な問題を先送りする姿勢も見られる。テーマを経済分野に限定するこれまでのやり方を継続している。EUが今回の合意を、経済的に強い協力関係を政治的に生かし切ったかという点では疑問が残る。EUの中国に対する認識に変化が見られるものの、EUと中国の関係は経済が中心であり、経済面と政治的な問題とのバランスを取る経験、意識がまだEU側にかけている点もうかがえる。EUは投資協定で合意するにあたり、政治的問題について中国に改善を求めることができたはずだが、そのチャンスを生かし切ったとは言えないだろう。
質問:
今後EUでは、CAIの正式な締結に向けて、EU理事会(閣僚理事会)と欧州議会で承認を受ける必要がある。一部の加盟国や欧州議会議員からは、中国の人権状況を問題視する声や、対中政策において米国との協調的な対応を求める声が上がるなど、CAIの早期批准に対する慎重論も根強い。また、中国側がどこまで真摯(しんし)に向き合うか疑問視する声もある。今後の見通しについて、どのようにみるか。
答え:
私の印象としては、欧州委員会にとって、合意後の批判の大きさは想定以上であり、驚きを持って受け止めた、というものだった。批准手続きは難航すると思われる。最も問題視されているのは労働環境を含む人権問題。批准に向けては、人権問題を切り離す形で対応することも考えられる。
本協定における中国側の譲歩幅は小さく、既に実施している政策と大きく変わらない。そのため、ドイツの経済界は、今回の合意は小さな前進でしかなく、中国側に大きな変化があるとは期待していない。中国側が協定を順守しなかった場合のメカニズムがまだ盛り込まれておらず、EU側の対抗措置も限定的と考える。ドイツは中国に巨額を投資していることから、中国にとってドイツは経済面で重要なパートナーであり、良好な関係を維持するために部分的な譲歩(改善)はあるかもしれないが、大きな変化はないだろう。このため、今回の原則合意は、どちらかというと政治的な合図として捉えている。中国は国有企業の改革に取り組んでいる。国有企業の非効率性は以前から指摘されており、改革に反対の声は根強いものの、今回の協定を国内政策に役立てる可能性はある。
対中関係において、米国とEUの連携の可能性は限られると考える。バイデン政権に移行し、米国とEUの協力関係に変化はあるだろうが、米国とEUでは対中国関係における関心が異なる。関心の高い分野が異なるという点は米国の政権交代後も変わらない。EUは中国に対し、独自の立場を構築するべきだと考える。
質問:
一部では、2020年11月15日に交渉国のうち、インドを除く15カ国が署名した東アジアにおける地域的な包括的経済連携協定(RCEP)による、中国のアジア地域での存在感の高まりを警戒する声もあるが、欧州またはドイツの立場から、影響をどのようにみるか。
答え:
ドイツの経済界は、RCEPで中国の立場に大きな変化はないと見ている。それよりも、ドイツ企業と競合する分野において、RCEPが日本や韓国の企業に有利に働くことへの警戒心の方が大きい。
質問:
近年、一帯一路の文脈の中で、中国企業による欧州のハイテク企業やインフラ関連企業の買収事例が相次いでいる。各国政府による危機感も高まっていると思うが、どのようにみるか。
答え:
各国政府による危機感が高まっていることを私は肯定的にとらえている。防御対策はまだまだ不十分だが、防御のメカニズムを導入する動きは速かったと思う。中・東欧諸国も含め、中国に対する見方に変化があり、中国の欧州企業への投資に慎重になっているのは、ポジティブな変化だ。
第5世代移動通信システム(5G)におけるドイツの対応を見ていると、ドイツは毅然(きぜん)とした姿勢を示すことに迷いがある。ドイツは中国企業を排除すると、中国から報復を受けるのではないかという強い不安を抱いているためだ。しかし、これは間違った不安だと考える。中国にとって欧州は重要な投資先であり、特にハイテク分野は中国にとって重要だ。EUの中で、ドイツほど中国との経済関係が強い国は他にない。ドイツでは、中国との関係が悪化すると経済が立ち行かなくなるという考え方が強いが、これは偏った見方だと考えている。こうした見方のため、仕返しを受けるのを恐れ、5G分野で中国企業を排除するという明確な姿勢を示すことを躊躇(ちゅうちょ)している。ドイツが華為技術(ファーウェイ)を全面的に排除するような明確な態度を示すことはないだろう。ただし、今年末に首相が交代すれば、方向性に変化がみられる可能性はある。西欧、北欧諸国はリベラルで、オープンな市場を重視する価値観を持つことから、国外投資に制限を設けることに躊躇がみられる。

ドイツ企業の中国進出意欲は引き続き旺盛

質問:
欧州企業(特にドイツ企業など)の対中進出について、新型コロナウイルス禍の中では中国市場はほぼ唯一の成長市場であり、たとえばドイツの自動車メーカー販売動向でも中国依存が増している。今後も中国依存の傾向は強まるとみるか。また中国市場は魅力的である一方、技術移転の要求など制度的な面の問題、その他の対外的な風評などのリスクもあるがどのように欧州企業は対処しているか。
答え:
ドイツ企業が中国市場からの撤退を考えているような様子は全くない。自動車、化学業界を見ても大規模投資を積極的に行っている。グローバルな政治的リスクを意識して、サプライチェーンの中国国内の現地化や研究開発の現地化を強化している。他のアジア諸国に拠点を移すという動きも顕著には見られない。他のアジア諸国に拠点を設けるとしたら、そこに意味があるからであり、中国離れが理由ではない。コロナ禍にあっては、中国市場をより重視する傾向がみられる。他の地域における業績悪化を相殺するため、中国事業をさらに強化しなければならないという姿勢が見える。
中国とドイツは経済的に相互依存している。ドイツが一方的に中国に依存しているわけではない。ドイツ企業、例えばフォルクスワーゲン(VW)は中国の合弁企業を通して多くの雇用を創出しており、ドイツ企業が撤退すれば、中国の労働者が雇用機会を失うことになる。工作機械も中国市場の依存度が高いが、中国側もドイツ企業の優れた製品を必要としている。
ドイツでは、このように中国関係を冷静な目で見るような動きが少しずつ見え始めている。ドイツは不安を抱くだけでなく、中国とドイツの相互依存の関係を冷静に見極め、マネージメントしていくべきだ。中国は、外交において国外企業の中国市場への依存をうまく利用している。オーストラリアの例を見ても、ワインなど中国にとって重要でない分野では強い姿勢を示し、鉄鉱石など中国に悪影響を及ぼす分野には触れないようにしている。

中国政府は、国外企業の技術への依存度引き下げを模索

質問:
新型コロナウイルスの感染拡大に加え、国家規制の導入や知的財産の保護など、対中ビジネスを進めるうえで、さまざまなリスクを懸念する声も聞かれる。欧州企業は、「チャイナリスク」をどのようにみているか。
答え:
2つのリスクがあり、状況は複雑になっている。 1つは、中国政府の自前主義の流れで、国外企業の技術への依存を減らそうとしている点だ。同時に、中国企業は技術的に力をつけており、現在は中国企業が主導的な地位にある分野もある。以前のようにドイツ企業が必ずしも優位にあるわけではない。米国の制裁の影響なども踏まえ、サプライチェーンの見直しも課題となっている。中国の顧客はドイツ企業に対し、どこから部品を調達しているかを確認するケースが増えている。例えば、すべての部品を中国で現地生産していれば、米国の制裁の影響を受けないため、中国の顧客にとっては今後の調達に影響が出ない。
2つ目には、中国事業を強化せず、同国の成長の寄与を受けなかった場合のリスクが挙げられる。例えば、特定の技術に関しては中国で生産しないと決断した場合、他の競合が中国で生産し、同国での市場地位を強めれば、競合に後れを取るリスクがある。VWが良い例で、VWは全面的に中国に注力しており、その大きな恩恵を受けている。
質問:
ドイツの連邦議会選挙(首相交代)の対中政策への影響をどう見るか。
答え:
メルケル政権は中国に対し極めて友好的で、対立を避け、対話による良好な関係を維持することに注力してきた。次期政権では、方向性に変化がみられるだろう。全く異なる方向に向かうことははないが、状況は複雑になっている。他の政党も以前とは異なり、中国のグローバルな影響を意識している。今後は中国との関係において経済面だけに注力するというわけにはいかない。経済分野における問題は今後も存在し続けるが、政治分野など非経済分野の問題がますます前面に出てくる。このため、ドイツ政府の方向性が全く異なる方向に向かうことはないにしても、個々の分野で中国に対し異なる立場を取ることが出てくるだろう。
執筆者紹介
ジェトロ・デュッセルドルフ事務所 ディレクター(執筆当時)
森 悠介(もり ゆうすけ)
2011年、ジェトロ入構。対日投資部対日投資課(2011年4月~2012年8月)、対日投資部誘致プロモーション課(2012年9月~2015年11月)を経て現職。
執筆者紹介
ジェトロ・デュッセルドルフ事務所
ベアナデット・マイヤー
2017年よりジェトロ・デュッセルドルフ事務所で調査および農水事業を担当。

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