2020年の新車登録台数は前年比27.9%減(イタリア)
環境低負荷車は急拡大
2021年7月28日
2020年のイタリアの新車登録台数は、新型コロナウイルスの影響を受けて大きく落ち込んだ。下期は経済活動の再開とともに徐々に回復がみられた。政府による環境低負荷車の購入補助制度による追い風もあり、電気自動車(EV)市場は急激に拡大している。
新車登録台数は前年比27.9%減、ブランド別では引き続きフィアットが首位
外国自動車代理店組合(UNRAE)の資料「UNRAE Pocket 2020」によると、イタリアの2020年の新車登録台数は前年比27.9%減の138万1,418台だった。新型コロナウイルスの世界的な感染拡大の影響を受け、2015年以降最低の数値となった(UNRAEの資料「UNRAE Book 2020」)。半期ごとにみると、最初に感染が広がった上半期(1~6月)は前年同期比46.1%減と大幅に減少。ただし、徐々に経済・社会活動が再開した下半期(7~12月)は同4.4%減だった。比較的小幅な減少まで持ち直したことになる。
自動車メーカー・ブランド別にみると(表1参照)、前年に引き続きフィアットが首位を守った。もっとも前年比25.8%減で、20万8,358台だった。次いで、フォルクスワーゲンが27.5%減の12万8,156台と続いた。大方のメーカーが前年比で大きく台数を落とした中、テスラは55.1%増の3,804台となった。全体では32位、構成比0.3%にとどまるが、例外的な伸びで、注目される。
日系メーカー・ブランドでは、トヨタが6位の7万1,142台。前年比21.1%減と縮小はしたものの、前年から順位を1つ上げた。スズキも2つ順位を上げて16位となった。前年比の全体平均が27.9%減なのに対して、12.6%減と比較的減少幅が抑制された。マツダ(25位)、ホンダ(26位)、レクサス(30位)は20%台から30%台の前年比減となったものの、それぞれ1つ順位を上げている。三菱(31位)は48.9%減と大幅に落ち込んだ。
順位 | 自動車メーカー・ブランド | 台数 | 前年比 | シェア |
---|---|---|---|---|
1 | フィアット | 208,358 | △ 25.8 | 15.1 |
2 | フォルクスワーゲン | 128,156 | △ 27.5 | 9.3 |
3 | フォード | 89,562 | △ 26.9 | 6.5 |
4 | ルノー | 85,891 | △ 24.6 | 6.2 |
5 | プジョー | 81,625 | △ 25.8 | 5.9 |
6 | トヨタ | 71,142 | △ 21.1 | 5.1 |
7 | シトロエン | 64,362 | △ 25.6 | 4.7 |
8 | ジープ | 59,599 | △ 26.9 | 4.3 |
9 | オペル | 53,880 | △ 44.2 | 3.9 |
10 | ダチア | 53,407 | △ 36.5 | 3.9 |
16 | スズキ | 33,454 | △ 12.6 | 2.4 |
18 | 日産 | 28,352 | △ 34.3 | 2.1 |
25 | マツダ | 10,096 | △ 24.7 | 0.7 |
26 | ホンダ | 6,705 | △ 22.7 | 0.5 |
30 | レクサス | 4,044 | △ 30.6 | 0.3 |
31 | 三菱 | 4,034 | △ 48.9 | 0.3 |
36 | スバル | 2,100 | △ 25.1 | 0.2 |
合計(その他の自動車メーカー・ブランドを含む) | 1,381,418 | △ 27.9 | 100.0 |
注:1~10位および日系の自動車メーカー・ブランド。
出所:「UNRAE Pocket 2020」からジェトロ作成
人気モデル別にみると(表2参照)、フィアットの「パンダ」が引き続き首位を占め、前年比20.0%減の11万464台となった。フィアットはこのほか、500Xと500の2つのモデルが上位5位に入っている。ランチアのイプシロンは26.8%減の4万3,033台と、2位をキープした。ルノーの「キャプチャー」は前年比9.0%減と他の主要モデルと比較すると小幅な減少にとどまった。順位も、前年の14位から8位へ躍進した。日系メーカー・ブランドでは、トヨタの「ヤリス」が19.6%減の2万9,608台。前年から2つ順位を上げて7位となった。
順位 | モデル | 自動車メーカー・ブランド | 台数 | 前年比 |
---|---|---|---|---|
1 | パンダ | フィアット | 110,464 | △ 20.0 |
2 | イプシロン | ランチア | 43,033 | △ 26.8 |
3 | 500X | フィアット | 31,831 | △ 25.2 |
4 | クリオ | ルノー | 31,653 | △ 24.1 |
5 | 500 | フィアット | 31,409 | △ 11.5 |
6 | レネゲード | ジープ | 31,088 | △ 25.4 |
7 | ヤリス | トヨタ | 29,608 | △ 19.6 |
8 | キャプチャー | ルノー | 29,299 | △ 9.0 |
9 | C3 | シトロエン | 29,168 | △ 30.0 |
10 | サンデロ | ダチア | 28,101 | △ 20.5 |
出所:「UNRAE Pocket 2020」からジェトロ作成
ガソリン・ディーゼル車のシェア縮小、環境低負荷車は急伸
動力源別では、ガソリン車が全体の37.5%、ディーゼル車が33.1%と、どちらも前年比6.9ポイント減となり、シェアを縮小させた(表3参照)。ディーゼル車については、2016年の57.0%からシェアが継続的に縮小している。台数でみても、2017年の111万2,746台から毎年減少を続け、2020年には45万2,030台まで落ち込こんだ(「UNRAE Book 2020」)。
動力源 | 2018年 | 2019年 | 2020年 |
---|---|---|---|
ガソリン | 35.2 | 44.4 | 37.5 |
ディーゼル | 51.5 | 40.0 | 33.1 |
LPG | 6.5 | 7.1 | 6.8 |
ハイブリッド | 4.3 | 5.7 | 16.0 |
うちプラグイン | 0.3 | 0.3 | 2.0 |
メタン | 1.9 | 2.0 | 2.3 |
電気 | 0.3 | 0.5 | 2.3 |
注:小数点処理の方法により合計が100%にならない場合がある。
出所:「UNRAE Pocket 2020」からジェトロ作成
一方、環境負荷がより小さいハイブリッドは16.0%と、前年の5.7%から大きくシェアを伸ばした。ハイブリッドのうちプラグインも、台数では前年の6,539台から4.2倍の2万7,443台に増加。シェアは依然小さいものの0.3%から2.0%へと上昇している。その他、電気自動車(EV)も、2019年の1万671台から2020年には約3倍の3万2,489台に飛躍(図参照)。シェアも0.5%から2.3%に拡大した。
環境低負荷車の購入補助制度、2021年末まで補助額上乗せ
環境低負荷車の普及には、イタリアの低排出ガス車の購入補助制度「エコボーナス」が貢献している。2019年予算法によって「エコボーナス」制度が成立し、2020年8月からは同年末までの措置として、補助額の上乗せを導入した(2020年8月4日付ビジネス短信参照)。2021年予算法でも、同年以降の購入者への補助額上乗せを再度規定した(注1)。例えば、車両カテゴリーM1(注2)に該当する車両のうち、走行1キロ当たりの二酸化炭素(CO2)排出量が20グラム以下の自動車を購入し、かつ既に所持している車を廃車にする場合は、最大1万ユーロ分のメリットを享受することができる。上乗せ分2,000ユーロを含む8,000ユーロの補助金に、さらに販売者から2,000ユーロの割引を受けるためだ(表4参照)。
1km走行あたりのCO2排出量(注1) | 廃車あり(注2) | 廃車なし | ||||
---|---|---|---|---|---|---|
既存の補助額 | 上乗せ分(注3) | 合計補助額 | 既存の補助額 | 上乗せ分(注3) | 合計補助額 | |
20グラム以下 | 6,000ユーロ | 2,000ユーロ | 8,000ユーロ | 4,000ユーロ | 1,000ユーロ | 5,000ユーロ |
20グラム超~60グラム以下 | 2,500ユーロ | 2,000ユーロ | 4,500ユーロ | 1,500ユーロ | 1,000ユーロ | 2,500ユーロ |
条件 | なし | 販売者が少なくとも2,000ユーロの割引をすること | なし | 販売者が少なくとも1,000ユーロの割引をすること |
注1:2021年1月1日~6月30日の期間は、60グラム超~135グラム以下の車種についても補助額が設定されていた。
注2:ユーロ0/1/2/3/4/5に該当し、2011年1月1日以前に新車登録された車両が対象。「ユーロ」は自動車による大気汚染物質の排出規制値を定めたEUの排出基準。
注3:上乗せ対象となる購入・新車登録の期間は2021年1月1日~12月31日。
出所:イタリア経済開発省公表資料を基にジェトロ作成
2021年以降も、環境低負荷車の普及が続いている。2021年上半期(1~6月)の新車登録台数について動力源別にみると、新型コロナ禍前の2019年上半期と比較しても、ハイブリッド車は4.4倍、EVは6.1倍だ(UNRAEの7月1日付資料)。全体での実績17.9%減と比べると、いずれも急拡大ぶりが際立つ。今後の動向が引き続き注視される。
- 注1:
- イタリア議会は7月中旬現在、エコボーナス制度の改正を含む法令改正案を審議中。今後、制度変更の可能性がある。
- 注2:
- 乗客の輸送を目的とし、座席は運転席のほかに8席を超えない車両。
- 執筆者紹介
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ジェトロ・ミラノ事務所
山崎 杏奈(やまざき あんな) - 2016年、ジェトロ入構。ビジネス展開支援部ビジネス展開支援課・途上国ビジネス開発課、ジェトロ金沢を経て、2019年7月より現職。