関税同盟としてのメルコスール
域内のルールや自動車協定との関係は?
2021年2月8日
メルコスールは、アルゼンチン、ブラジル、パラグアイ、ウルグアイの正式加盟国で構成される関税同盟だ。域内を合わせて、GDPが2兆8,387億ドル、人口2億6,649万人の巨大市場になる(注1)。日本との間では、さらなる貿易・経済拡大の余地がありそうだ。2019年時点で、日本はメルコスールの輸入相手国として8位。メルコスールの対日輸入割合は、メルコスールの世界全体からの輸入額のわずか2.6%にとどまっている(注2)。とくにブラジル、アルゼンチンは、人口がそれぞれ2億1,104万人、4,493万人と、市場が大きい(注3)。
それら各国とビジネスする上で重要なのが、関税同盟としてのメルコスールについて知っておくことだ。本レポートでは、関税同盟の概要や、域内の自動車協定についても紹介する。
例外多い異質な関税同盟
メルコスールは、1991年に締結されたアスンシオン条約で設立が規定された。1995年1月1日から関税同盟として機能している。メルコスールの特徴として、以下の5点が挙げられる。
- 原産地規則を満たすことを条件に、域内関税は原則撤廃
- 対外共通関税率(注4)を、全ての正式加盟国が採用
- 加盟国ごとに、対外共通関税率の例外品目設定が認められている
- 自動車および同部品と砂糖は、メルコスール域内自由化の対象外
- メルコスールが第三国・地域または他地域と通商交渉を開始するにあたっては、コンセンサス方式(全会一致)を採用
メルコスールは関税同盟のため、非加盟国の産品に対して加盟国は、共通の関税率(すなわち対外共通関税率)を適用することになる。その一方で、各国ごとに数百品目におよぶ「対外共通関税の例外品目」を定めることが認められている。加えて自動車・同部品および砂糖は、産業として重要なため、そもそも域内自由化の対象になっていない。これら品目については、域内産品であっても各国が設定する一般の関税率が適用されるのだ。自動車産業と砂糖は現状「メルコスール協定の対象外」と考えると分かりやすいだろう。
ただし、このいずれも、メルコスールの枠組みでの自由化を放棄しているわけではない。砂糖については、メルコスール共同市場審議会(CMC)決議7/94および16/96で、「2001年までに域内自由化に関するルールを策定する」と記された(ただし、協議は現在もなお継続中)。自動車・同部品については、加盟国が2国間で個別のルール、いわゆる「自動車協定」を締結して自由化するという形になっている(後述)。将来的には、自動車・同部品および砂糖ともに、メルコスールの枠組みでの域内自由化を目指している。
なお、メルコスールでは、第三国・地域との自由貿易協定(FTA)交渉は全加盟国一体となって行わなければならない。
数百品目におよぶ例外品目を各国が規定
例外品目の関税率は、WTOに申告している譲許税率を超えない範囲で引き上げることも可能だ(注5)。加盟各国が指定できる例外品目(NCMコード8桁ベース)の上限数および期限は、以下の通り定められている(注6)。ブラジルおよびアルゼンチンでは最大100品目、パラグアイやウルグアイでは、さらに数多い品目を例外品目とすることができる(表1参照)。なお、この例外品目は、半年ごとに全体の20%を上限に入れ替えることができる(注7)。
国名 | 上限数 | 期限 |
---|---|---|
アルゼンチン | 100品目 | 2021年12月31日まで |
ブラジル | 100品目 | 2021年12月31日まで |
パラグアイ | 649品目 | 2023年12月31日まで |
ウルグアイ | 225品目 | 2022年12月31日まで |
出所:CMC決議26/15
前述の例外品目以外にも、事実上、例外品目とみなせる場合も考えられる。その1つが、資本財と情報通信財の例外だ(注8)。これは、国産の類似品がない資本財や情報通信財について、対外共通関税率の例外として扱うことができるというものだ。ブラジルやアルゼンチンでは原則、税率0%が適用される。品目数の上限について、特段の規定はない。
もう1つの例外は、供給上の理由による一時的関税低減措置(注9)。国産の類似品があっても、供給上の理由で一時的に関税が低減される仕組みだ。例えば、(1) 国内での供給が十分でないときや、(2) 国産類似品が存在しても、生産工程拡大や生産量増加が望めない場合に適用される。これも、品目数の上限について特段の規定がない。本措置について定めた共同市場グループ(GMC)決議08/08では、措置が適用できるケースとして以下の通り記載されている。
参考:供給上の理由による一時的関税低減措置の適用条件
- 域内での供給が十分でないとき
- 国産類似品は存在するが、生産工程を拡大することや生産量を増やすことができない、または経済的に妥当でないとき
- 国際類似品は存在するが、生産工程が十分でないとき
- 原材料の域内での入手が困難なとき
出所:GMC決議08/08
この措置は、最近では、新型コロナウイルス感染拡大により国内で医療機器や薬剤が不足した際にも適用された。例えば、ブラジルでは、2020年5月14日付のCAMEX決議44号により、関連品目500品目ほどが本措置の対象にされた(関税が無税になった)。
なお、これら例外品目の変更や追加などのプロセスは、民間企業や業界団体などのプライベートセクターからの要望に基づいて行われる。例えば、ブラジルでは、国内で課される関税率について決定権限を持つCAMEX(経済省傘下の機関)が、民間からの要望を踏まえて、分析、審査、検討する。その結果、国内法によって最終的に規定される(注10)。
ブラジルでは2021年1月時点で、96品目が例外品目に規定されている。その対象品目は、CAMEXのサイト から確認できる。アルゼンチンでは、100品目が例外品目に指定されている。同様に、政府サイト(156.85KB) で確認できる。
換言すれば、日本からの製品輸出の際、相手国側でかかる関税率が頻繁に変わる可能性含みということになる。そのため、関税率検索の際には各国の関税率検索サイトの利用がお勧めだ。アルゼンチンは、公共歳入連邦庁(AFIP) のサイト上で確認できる。ブラジルは、民間企業が運営するTECWEB などで、国内決議などに基づく新たな関税率が迅速に反映された結果を参照可能だ。いずれもスペイン語表記、ポルトガル語表記。現実的には、NCMコードでの検索ということになるだろう。
各国ごとにルールを定めた自動車協定
メルコスール各国は、自動車および同部品について、個別に2国間で自動車協定を締結している。この自動車協定は、ラテンアメリカ統合連合(ALADI)の枠組みで結ばれている経済補完協定の1つだ。ALADIとは、メキシコ以南の中南米13カ国が加盟国となっている地域経済統合体。域内特恵関税の制定などについて規定している(注11)。各自動車協定は、表2の通り。なお、アルゼンチン-パラグアイ間の自動車協定は、2019年11月に署名された。しかし、現時点でまだ発効しておらず、協定文も公開されていない(2019年11月5日付ビジネス短信参照)。
締約国 | ALADI枠組み内での協定番号 |
---|---|
ブラジルーウルグアイ | 経済補完協定(ACE)2号 |
ブラジルーアルゼンチン | 経済補完協定(ACE)14号 |
アルゼンチンーウルグアイ | 経済補完協定(ACE)57号 |
ブラジルーパラグアイ | 経済補完協定(ACE)74号 |
アルゼンチンーパラグアイ | 未発効/2019年11月に、両国間の署名は完了 |
出所:ALADIウェブサイト、各協定を基にジェトロにて作成
自動車協定では、協定ごとに定められた原産地規則を満たすことで、原則、関税無税で自動車および同部品が輸出入できる。ただ、現時点では、一部の自動車協定で域内自由化されるだけに留まる。すなわちそれ以外は、無税で輸出入できる金額や台数の上限が定められていることになる。協定枠外になると、仮に原産地規則を満たしていても有税となり、関税を支払って輸入しなければならない。完成車の原産地規則や上限枠は、協定ごとに異なる。例えばブラジル・アルゼンチン間の協定では、域内付加価値割合(RVC)50%が控除方式で規定されている。他協定ではその限りではない。
現時点で上限枠なく完全自由化しているのは、ブラジル-ウルグアイ間のACE2号だけだ。自動車、同部品ともに、原産地規則を満たしていれば無関税で輸出入できる。また、アルゼンチン-ウルグアイ間のACE57号では、自動車および同部品ともに、アルゼンチンからウルグアイ向けは、原産地規則を満たしていれば無税になる。しかし、ウルグアイからアルゼンチン向けには上限枠が設定されている。
ブラジル-パラグアイ間のACE74号は、2020年9月28日に発効したばかりだ。RVCや無関税上限枠は、2021年現在のもの。今後、段階的にRVCや枠が引き上げられていく予定だ(2020年3月12日付ビジネス短信参照)。その他の各自動車協定の概要は表3の通り(注12)。
締約国 | ALADI枠組み内での協定番号 | 対象 |
域内付加価値割合 (RVC) |
上限 | 備考 |
---|---|---|---|---|---|
ブラジル- ウルグアイ |
経済補完協定(ACE)2号 | 自動車・同部品 | 55%以上 | 無し | ブラジル→ウルグアイ |
自動車・同部品 | 50%以上 | 無し | ウルグアイ→ブラジル | ||
アルゼンチン- ウルグアイ |
経済補完協定(ACE)57号 | 自動車 | 60%以上 | 20,000台 | ウルグアイ→アルゼンチン |
自動車部品 | 60%以上 | 6,000万USD | ウルグアイ→アルゼンチン | ||
自動車・同部品 | 60%以上 | 無し | アルゼンチン→ウルグアイ | ||
ブラジル- パラグアイ |
経済補完協定(ACE)74号 | 自動車 | 35%以上 | 3,000台 | ブラジル・パラグアイ双方 |
自動車部品 | 40%以上 | 4億USD | パラグアイ→ブラジル | ||
自動車部品 | 45%以上 | 無し | ブラジル→パラグアイ |
出所:ALADIウェブサイト、各協定を基にジェトロにて作成
ブラジル-アルゼンチン間のACE14号では、上限枠ではなく、均衡係数が規定された。両国が輸出入のバランスを取るのが目的で、2021年は均衡係数1対1.8だ(表4参照)。これは、100万ドル輸入することで180万ドル輸出することが可能なことを意味する。この均衡係数を超えた場合は有税になる。自動車の場合は、26~25%の税率が賦課され、自動車部品の場合は、それぞれの品目の関税率の75%に相当する税率が賦課される。なお、最新の追加議定書(第44次追加議定書)によると、2029年7月1日以降は自由化が見込まれている。
期間 | 均衡係数 |
---|---|
2020年7月1日~2023年6月30日 | 1対1.8 |
2023年7月1日~2025年6月30日 | 1対1.9 |
2025年7月1日~2027年6月30日 | 1対2.0 |
2027年7月1日~2028年6月30日 | 1対2.5 |
2028年7月1日~2029年6月30日 | 1対3.0 |
出所:ACE14号(第44次追加議定書)を基にジェトロにて作成
4カ国とFTA交渉を継続するメルコスール
メルコスールは現在、カナダ、シンガポール、韓国、レバノンと自由貿易協定(FTA)交渉を継続している。カナダとは2019年内、韓国とは2020年内の妥結を目指していた。ただし、現時点でいずれも政治合意には至っていない。ちなみにこれまでには、ALADIの枠組み以外では、4カ国・地域とFTAあるいは特恵貿易協定(PTA)を締結、発効している(表5参照)。
対象国・地域 | 発効時期 | 概要 |
---|---|---|
メルコスール・インド 特恵貿易協定 |
2009年6月 | インド側約450品目、メルコスール側452品目が軽減税率の対象。0%、10%、20%、100%のいずれかが適用される |
メルコスール・イスラエル自由貿易協定 |
2009年12月(ウルグアイ) 2010年3月(パラグアイ) 2010年4月(ブラジル) 2011年9月 (アルゼンチン) |
イスラエル側、約8,000品目、メルコスール側、9,424品目が自由化の対象 |
メルコスール・SACU 特恵貿易協定 |
2016年4月 |
南部アフリカ関税同盟(SACU):ボツワナ、レソト、ナミビア、南ア、スワジランドによる関税同盟 メルコスール側1,076品目、SACU側約1,000品目が軽減税率の対象。10%、25%、50%、100%のいずれかが適用される。 |
メルコスール・エジプト 自由貿易協定 |
2017年9月 | メルコスール側でおよそ9,700品目が自由化の対象 |
出所:各協定文を基にジェトロにて作成
なお、EUとは2019年6月、EU・メルコスール間のFTAが政治合意に達した(2020年9月16日付地域・分析レポート参照)。2021年1月時点で、署名はまだ行われていない。メルコスールにとってEUは、輸入相手国・地域として中国に次ぐ第2位だ。当協定発効により、さらなる貿易活性化が見込まれる。また、このFTAの対象は、物品貿易に限られない。、サービス貿易や貿易の技術的障壁(TBT)などを含め、メルコスールとしては初めての包括的なFTAになる見込みだ。それだけに、両地域の広範な経済関係強化が期待される。
- 注1:
- 出所は、世界銀行「World Development Indicators」(2020年9月時点)。
- 注2:
- 出所は、メルコスール事務局統計。2019年時点。輸入相手国として首位は中国。
- 注3:
- 出所は、注1と同じ。
- 注4:
- スペイン語では、Aranel Externa Común(AEC)、ポルトガル語ではTarifa Externa Comum(TEC)と呼ぶ。
- 注5:
- 根拠法は、CMC決議39/11。
- 注6:
- 根拠法は、CMC決議26/15。
- 注7:
- 根拠法は、CMC決議58/10。
- 注8:
- 根拠法は、CMC決議34/03、CMC決議57/10など。スペイン語では、Lista Nacional de Bienes de Capital y Bienes de Informática y Telecomunicaciones、ポルトガル語では、Lista Nacional de Bens de Capital e Bens de Informática e Telecomunicaçõesと呼ぶ。
- 注9:
- 根拠法は、GMC08/08。スペイン語では、Âmbito Arancelario por Razones de Abastecimiento、ポルトガル語では、Âmbito Tarifário Por Razões de Abastecimentoと呼ぶ
- 注10:
- 根拠法は、CMC決議25/15、CMC決議26/15など。
- 注11:
- メルコスール自体が、ALADIの枠組みで結ばれた経済補完協定の1つだ(ALADI、経済補完協定(ACE)18号として、メルコスールが規定されている)。なおALADIは、GATTの授権条項に基づいてWTOに通報されている。
- 注12:
- ここに記載しているものは、あくまでも各自動車協定の概要に過ぎない。例えば、トラック、バス、その他(乗用車の中でも、ハイブリッド車や電気自動車など)に、別の上限枠がある協定もあるので、留意が必要。
- 執筆者紹介
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ジェトロ海外調査部米州課 課長代理(中南米)
辻本 希世(つじもと きよ) - 2006年、ジェトロ入構。ジェトロ北九州、ジェトロ・サンパウロ事務所などを経て、2019年7月から現職。