ASEAN物品貿易協定(ATIGA)修正議定書のポイント

2020年10月13日

東南アジア諸国連合(ASEAN)加盟国は、初めて大幅に改訂したASEAN物品貿易協定(ATIGA)の修正議定書PDFファイル(1.05MB)を、2020年9月20日から運用開始した。修正議定書により、認定輸出者による原産地の自己申告制度が導入されたほか、付加価値基準を用いる場合でも、原産地証明書へのFOB価格義務が原則撤廃されるなど、大きな変更が加えられている。本稿では、修正議定書とともに改訂された、運用上の証明手続き書(Operational Certification Procedure: OCP)の解説を通じ、変更のポイントを示す。

認定輸出者による原産地自己申告制度がスタート

ASEAN物品貿易協定(ATIGA)の修正議定書では、第38条(原産地の証明)の条文改訂、ならびに同条で参照している、第8付属書〔運用上の証明手続き書(Operational Certification Procedure:OCP)〕の改訂が行われた(資料1参照PDFファイル(485.79KB)、注1)。修正の最大の目的は、原産地を証明する方法として、従来の原産地証明書(フォームD)、2018年1月から運用開始された電子原産地証明書(eフォームD)(2019年6月4日付地域・分析レポート参照)に加え、輸出者自身による原産地申告制度(自己証明制度)を導入することである。

ASEANでは、原産地自己申告制度を導入するため、2010年から第1パイロット事業(SC1)を(2010年12月16日付ビジネス短信参照)、2013年から第2パイロット事業(SC2)を(2013年3月6日付ビジネス短信参照)、それぞれ実施し運用改善や課題の抽出に努めてきたが、OCPの改訂により、それらはASEAN域内自己証明制度(ASEAN-wide Self-Certification of Origin:AWSC)として統合された。

AWSCでは、輸出者、生産者のいずれかが「認定輸出者(Certified Exporter:CE)」として当局に登録・認可を受け、インボイスなどの貿易書類に特定の文言を署名権者の署名付きで記載(原産地申告)することで、ATIGAに基づく特恵税率の適用を求めることができる。また、それらの情報はASEAN事務局が管理するAWSCデータベースに登録され、相手国税関はその情報を参照することで、特恵税率の適用可否を決定する。登録から利用までの流れと、新たなOCP上の条項との関連は以下の通りとなっている。

1.CEになるための要件(規則12A第1項)

CEは、各国当局(Competent Authority)への登録・認可を受ける必要がある。その際の要件として、(1)輸出国の法令に基づき登録された法人であること、(2)原産地申告を行う認定署名権者に原産地規則を理解させること、(3)輸出国の法令に基づく輸出経験が十分にあること、(4)原産地規則に関する不正記録がないこと、(5)輸出国当局の定めるリスク管理に関するコンプライアンス体制が整備されていること、(6)CEが商社などの場合には、対象品目に対する製造業者による原産地申告書を有し、また必要に応じ、製造業者が相手国の当局による事後検認に協力すること、(7)輸出国の法令に従い適切な帳簿・記録管理システムを有していること、の7つが設けられている。

2.CEの登録(規則2第4項)

CE登録にあたっては、各国当局の指定するウェブサイトなどから、(1)登記上の法人名および住所、(2)原産地申告を行う物品リスト(6桁もしくは8桁のHSコードを含む、注2)、(3)1社あたり10人を超えない範囲の認可署名権者名、それらの署名見本などの情報を登録する。各国当局は、認可後、認可コードや認可日・失効日情報をそろえ、登録情報とともに、ASEAN事務局が管理する、AWSCデータベースに登録する。

3.原産地申告の要件(規則12B)

OCPの添付1のリストに掲載されている情報を必ず原産地申告に盛り込む必要がある。添付1に記載されている内容は以下3種類。

  • CE情報:CE認可コード
  • 物品の詳細:物品名、HSコード(6桁もしくは8桁)、適用する原産地規則、原産国、FOB価格〔付加価値基準(RVC)適用時に限る〕、物品の数量、商標(該当の場合のみ)を記載。さらに、連続する原産地証明書(バック・トゥ・バック)を用いる場合には、オリジナルの原産地証明の参照コード、発行日、原産国、CE認可コード(最初の原産地証明が原産地申告方式で行われた場合に限る)を記載。
  • 認定署名権者による証明:CEの認定署名権者は、根拠資料に基づき修正議定書第3章(原産地規則)の要件を全て満たしていることを申告。その際、印字もしくは名前のスタンプの上に署名をする形で行う。

4.原産地申告の文書・申告日など

原産地申告は、商業インボイス上に行う。ただし、輸出時に商業インボイスを用いることができない場合には、支払い明細書(Billing statement)、荷渡し指図書(D/O)、パッキングリスト上で申告を行い、輸入時にそれらの書類を商業インボイスと一緒に提出することで代用できる(規則12B第2項)。また原産地申告は、認定署名権者の名前および手書きの署名を有する必要がある(同第4項)。原産地申告日は、申告が記載されている書類自体の日付とし(同第5項)、また原産地申告の参照番号は、申告が記載されている書類自体の番号とする(同第6項)。

5.原産地申告の有効期間(規則14)

フォームD、eフォームDと同様、原産地申告を行った日から起算し12カ月間有効とする。

6.文書保管義務など(規則12A第3項)

CEは、(1)認可内容の監視・正確性の確認のため、当局に対し記録・資産へのアクセスを認めること。資料については原産性申告を行った後、少なくとも3年間は保管すること、(2)CEが原産性申告を行うことを認められた物品で、かつ申告時に原産性を証明する適切な文書を有している状態に限り、原産性申告を行うこと、(3)当局の事後検査・検認訪問に協力すること、(4)原産性申告内容につき全ての責任を負うこと、(5)AWSCデータベースに登録した内容に修正がある場合は速やかに当局に連絡すること、などの義務を負う。

フォームDへのFOB価格記載義務が原則撤廃

OCPについては、前述の原産地自己申告制度に関する修正に加え、従来のフォームD、eフォームDの形式についても変更が行われた。具体的には規則25(FOB価格)において、これまで付加価値基準(RVC)採用時に記載が義務付けられていたFOB価格情報につき、「RVC採用時、かつフォームDの裏面条項(Overleaf note)のFOB価格欄に記載のASEAN加盟国」が関係する場合の際に限り、求められることとなった。新OCPの別添として、新たなフォームDのフォーマットが掲載されている(資料2参照PDFファイル(188.74KB))。その裏面の該当箇所では、カンボジア、インドネシア、ラオスから輸出、もしくはそれらの国に輸入される場合とされている。

原産地証明書上にFOB価格を記載する義務は、特に第三国を経由したリインボイス取引の際に、中間事業者の利益率が輸入者側に知られてしまうリスクがあり、日系企業の中でも大きな問題となってきた。ASEAN日本人商工会議所(FJCCIA)などの改善要望を受け、2014年には関税分類変更基準(CTC)など、RVC以外の基準を用いる場合につきFOB価格の記載義務を撤廃してきたところ(2014年6月10日付ビジネス短信参照)、今回のOCP改訂により、前述3カ国を除く7カ国へ輸出する場合については、RVCを用いたとしてもFOB価格は記載する必要がなくなった。

なお、今回の改訂の対象となるのはバック・トゥ・バック形式を含む、フォームD、eフォームDのみである点には留意が必要である。CEによる原産地申告の場合、3で記載の通り、RVCを用いる際には、FOB価格を記載することが引き続き義務付けられる。

制度統合・新フォーム導入にあたり、移行期間を設定

今回のOCP改訂により、原産地証明の方法として、原産地証明書(フォームD)、電子原産地証明書(eフォームD)、原産地自己申告(AWSC、SC1、SC2)の5つの形式が一時的に併存し、また原産地証明書自体も旧フォームと新フォームが併存することとなる。タイ税関によると、それらの形式・フォームの移行期間は、表の通り定められている。

表:自己申告制度および原産地証明書様式の移行スケジュール(―は項目なし)

原産地自己申告制度
年月日 項目
2020年
9月19日
SC1、SC2に基づく原産地申告期限
2020年
9月20日
AWSCの運用の開始
2020年
9月20日~
12月20日
2020年
12月20日
2021年
9月18日
2020年9月19日に作成された原産地申告の受理最終日
2021年
9月19日
AWSCのみの運用に完全移行
2021年
12月19日
2021年
12月20日
原産地証明書(フォームD)様式
年月日 項目
2020年
9月19日
2020年
9月20日
新フォームの発行開始
2020年
9月20日~
12月20日
移行期間(旧フォーム、新フォームいずれも発行可能)
2020年
12月20日
旧フォームの発行最終日
2021年
9月18日
2021年
9月19日
2021年
12月19日
2020年12月20日に作成された旧フォームの受理最終日
2021年
12月20日
新フォームのみでの運用に完全移行

出所:タイ税関プレゼン資料からジェトロ作成


注1:
本OCPは、タイ税関が9月18日に出した、「ASEAN原産品の関税免除および減額のための規則および手続きに関する通達外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます 」(第152号/2020年)の別添資料として使われているもの。
注2:
通常、世界共通で設定されているHSコードは上6桁までだが、ASEANではASEAN統一関税分類コード(ASEAN Harmonized Tariff Nomenclature :AHTN) が定められ、域内で8桁まで調和が図られている。
執筆者紹介
ジェトロ・バンコク事務所
蒲田 亮平(がまだ りょうへい)
2005年、ジェトロ入構。2010年より2014年まで日ASEAN経済産業協力委員会(AMEICC)事務局次席代表を務めた後、海外調査部アジア大洋州課リサーチマネージャー。2017年よりアジア地域の広域調査員としてバンコク事務所で勤務。ASEANの各種政策提言活動を軸に、EPA利活用の促進業務や各種調査を実施している。