食品表示ラベル規格の改定に批判が集中(メキシコ)
知的財産権や国際ルールへの抵触も懸念、日本からの輸入品にも影響
2020年5月7日
メキシコ経済省および保健省が肥満率低下に向けた強化策として打ち出した、保険一般法(LGS: Ley General de Salud)の改正と、食品表示に関するメキシコ公式規格(NOM-051-SCFI/SSA1-2010)の改定は、メキシコの国内流通や輸入に影響を与えうる内容として食品産業を中心に批判が強まっている。本稿では、メキシコ人の肥満率の現状とその要因、LGSとNOM051の改正内容と産業界に影響を与えうる事項、今後の対応策、メキシコ国外の反応について考察する。なお、2019年10月29日付および2020年4月2日付のビジネス短信も参照。
さまざまな疾病の原因となり得る高い肥満率
国立統計地理情報(INEGI)と国家公衆衛生研究所(INSP)は2018年、「過体重」と「肥満」のデータを、世界保健機関(WHO)が定めるボディーマス指数(BMI)の数値にのっとり公表した。5万人を対象とした同調査によると、0~19歳(全人口の35.5%、4,360万人)で「過体重」(BMIが25以上30未満)の割合は、0~4歳で都市部8.4%、地方7.8%、5~11歳で都市部18.4%、地方17.4%、12~19歳で都市部24.7%、地方15.0%と高い。5~19歳の「肥満」(同30以上)率も高く、特に都市部の12~19歳層では21.0%と高くなっている(図1、図2参照)。また20歳以上の層では、「過体重」が男性42.5%、女性36.6%、「肥満」がそれぞれ30.5%、40.2%と非常に高くなっている(図3参照)。
INSPによると糖尿病患者数は全国で860万人、高血圧は1,520万人と、それぞれ20歳以上の層の10.3%と18.4%を占めている。特に高血圧は70歳以上では26.6%に達している。この要因として、加糖飲料の摂取量の多さと運動不足などが挙げられる。米国マサチューセッツ州のタフツ大学が2019年6月に発表した調査によると、メキシコの1人当たりの1日の清涼飲料水の摂取量は約500ミリリットルで、中南米諸国の中で第1位だった。INSPも超加工品(長期保存が可能で糖分や塩分を多く含む加工食品)の中で、清涼飲料水の消費が突出していることを指摘している。すべての年齢層で約85%が、日常的に清涼飲料水を飲んでいると回答した。また菓子、ケーキ、加糖シリアルなども20歳未満の回答が50%を超えている(図4参照)。他方、1週間の運動量に関して、WHOは緩い運動であれば150分未満、または激しい運動であれば75分未満の場合は運動不足と定義しているが、20歳以上のメキシコ人の約30%は150分未満と回答しており、慢性的な運動不足であることが分かる(図5参照)。
肥満対策に法律と強制規格を改正
メキシコ政府は2019年に、国民の肥満率低減、および肥満によって引き起こされ得る病気の発生率の低減のために保険一般法(LGS)(2.43MB) の改正を行った。改正案は2019年10月1日に下院、同月22日に上院で承認され、11月8日に官報公示(21.86KB) された。第212条と第215条が主な改正箇所で、摂取することで肥満につながる可能性がある高カロリーの加工食品や、糖分を多く含んだ非アルコール飲料のパッケージに警告表示を義務付けることと、その表示方法などが追加された。
まず、第212条では、表示ラベルは栄養成分情報を正確かつ分かりやすく伝えるものでなければならず、包装上の容易に見える箇所に掲出される必要があることが規定された。また、警告表示は包装の表面、かつ栄養成分表示とは独立したところにあることが必要で、伝達すべき情報を消費者が短時間で効率的に理解できるよう、文字を含んだピクトグラムも必要に応じて利用することを保健省がメーカーや輸入業者に指示できるようになった。第215条では、保健省が慢性的な病気を引き起こす要因と判断したカロリー、糖分、飽和脂肪酸、トランス脂肪酸、ナトリウムの5種の指定栄養成分のうち上限値以上のものがあれば、それを消費者に警告するためシンプルかつ明瞭に警告を表示することが規定された。
LGSの改正に沿うよう、強制規格であるメキシコ公式規格(NOM)も関連規則として改正が進められた。2019年10月11日に肥満など生活習慣病対策のための食品表示規格(NOM-051-SCFI/SSA-2010)(以下、NOM051)の改正案 が公示され、12月10日までパブリックコメント期間(60日間)が設けられ、5,200件以上のコメントが経済省に寄せられた。2020年1月25日に経済省基準総局(DGN)の国家標準化諮問委員会(CCONNSE)、および連邦衛生リスク対策委員会(Cofepris)の同諮問委員会(CCNNRFS)によるNOM051の承認が完了した。その後、両委員会が800ページ弱のパブリックコメントへの回答(5.94MB) を公開し、最終的に、3月27日に改正NOM051(1.37MB) が公示された。2020年10月1日に施行される。
警告表示義務は段階的に引き上げ
NOM051は2010年に制定された食品および非アルコール飲料へのラベル表示を規定するもので、2019年10月11日に公示された改正案はLGS第212条と第215条にリンクする形で修正された。その主目的は若年層を中心とする肥満の抑制だ。企業に求められる対応は段階的に引き上げられる。
まず1つ目として、食品包装に警告表示が必要な栄養成分(カロリー、糖分、飽和脂肪酸、トランス脂肪酸、ナトリウム)の基準値が段階的に引き上げられる。カロリーとナトリウムは、固形製品と液体製品で含有可能上限値が異なる。栄養成分上限値表はフェーズ1(2020年10月1日~2023年9月30日)、フェーズ2(2023年10月1日~2025年9月30日)、フェーズ3(2025年10月1日以降)と3段階で設定されている。なお、フェーズ2と3の上限値はまったく同一であるが、フェーズ1と2の段階では栄養成分上限値表そのものを包装に表示する必要はないものの、フェーズ3からは表示義務が発生する。
項目 | エネルギー | 糖分 | 飽和脂肪酸 | トランス脂肪酸 | ナトリウム |
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固形製品 | 275kcal以上 | 全エネルギーの10%以上が加糖由来(注3) | 全エネルギーの10%以上が飽和脂肪酸由来 | 全エネルギーの1%以上がトランス脂肪酸由来 |
(1)全含有量が350mg以上 (2)ノンカロリー飲料に45mg以上 |
液体製品 |
(1)70kcal以上(全体) (2)10kcal以上(加糖分) |
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警告表示 | EXCESO CALORÍAS | EXCESO AZÚCARES | EXCESO GRASAS SATURADAS | EXCESO GRASAS TRANS | EXCESO SODIO |
注1:適用期間は2020年10月1日~2023年9月30日の3年間。
注2:基準値は、固形が100g、液体が100ミリリットル当たり。
注3:加糖由来が10kcal未満の飲料は警告表示の貼付は不要。
注4:栄養成分上限値表自体の表示は不要。
出所:2020年3月27日付官報
項目 | エネルギー | 糖分 | 飽和脂肪酸 | トランス脂肪酸 | ナトリウム |
---|---|---|---|---|---|
固形製品 | 275kcal以上 | 全エネルギーの10%以上が加糖由来 | 全エネルギーの10%以上が飽和脂肪酸由来 | 全エネルギーの1%以上がトランス脂肪酸由来 |
(1)1kcalあたり1mg以上 (2)全含有量が300mg以上 (3)ノンカロリー飲料に45mg以上 |
液体製品 |
(1)70kcal以上(全体) (2)8kcal以上(加糖分) |
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警告表示 | EXCESO CALORÍAS | EXCESO AZÚCARES | EXCESO GRASAS SATURADAS | EXCESO GRASAS TRANS | EXCESO SODIO |
注1:適用期間は2023年10月1日~2025年9月30日の2年間。
注2:基準値は、固形が100g、液体が100ミリリットル当たり。
注3:栄養成分上限値表自体の表示は不要。
出所:2020年3月27日付官報
項目 | エネルギー | 糖分 | 飽和脂肪酸 | トランス脂肪酸 | ナトリウム |
---|---|---|---|---|---|
固形製品 | 275kcal以上 | 全エネルギーの10%以上が加糖由来 | 全エネルギーの10%以上が飽和脂肪酸由来 | 全エネルギーの1%以上がトランス脂肪酸由来 |
(1)1kcalあたり1mg以上 (2)全含有量が300mg以上 (3)ノンカロリー飲料に45mg以上 |
液体製品 |
(1)70kcal以上(全体) (2)8kcal以上(加糖分) |
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警告表示 | EXCESO CALORÍAS | EXCESO AZÚCARES | EXCESO GRASAS SATURADAS | EXCESO GRASAS TRANS | EXCESO SODIO |
注1:適用開始は2025年10月1日。
注2:基準値は、固形が100g、液体が100ミリリットル当たり。
注3:栄養成分の上限値はフェーズ2と同値だが、フェーズ3は食品包装に表自体の表示が必要となる。
出所:2020年3月27日付官報
含有している指定栄養成分のいずれか1つでも上限値以上である場合、対象の食品・飲料の包装に当該栄養成分に関する警告表示を掲出する。また、警告表示の仕様は指定されている(第4.5.3.4.1条)。なお、2020年10月1日~2021年3月31日までは、包装に警告表示のシールを貼付する対応でよいが、2021年4月1日以降は包装自体に警告表示が印刷されていなければならない。ジェトロがメキシコの複数の弁護士に確認をしたところ、店頭に並べられる予定の商品が、卸売業者から小売業者に引き渡された時点が10月1日より前であれば、10月1日にシールなしの商品が販売されていても違反にはならない可能性が高いとのことだ。また、2021年4月1日の印刷された警告表示についても同様の考え方ができるとのことだ。
包装上にキャラクターなどの使用を禁止
2020年10月1日から適用される第4.1.5条によって、1つでも警告表示がある商品には、子供の商品購入意欲を高めることを目的とするキャラクターや有名人(俳優やスポーツ選手など)の写真や絵の包装への表示に加え、おもちゃや割引券などのおまけを付けたりすることが禁止される。ただし、改正案の段階で含まれていたCM広告やSNSでの商品宣伝を禁止する条項は削除された。なお、メキシコの複数の弁護士は、「子供」は12歳以下との見解を示している。
他方、キャラクターなどの使用が禁止されることによって、知的財産権の侵害が指摘されている。例えば、中南米最大の製菓・製パン企業であるグルーポ・ビンボは、白い熊のキャラクター(El Osito Bimbo)をほぼ全ての商品に表示しているが、商品流通のために同社が商標登録をしているキャラクターが使用禁止となってしまうためだ。
「~風(ふう)」の商品は、「模倣品」の表示が必要に
改正案の段階では、第4.2.9条に代替品(Producto sustituito)という条項を含んでいた。これは、「~風(ふう)」という商品に対し、本物を代替するものとして表示を出す必要があると規定したものだった。例えば、「カルボナーラ風パスタソース」と称して販売している商品は「カルボナーラ・パスタソースの『代替品』」(大文字でPRODUCTO SUSTITUITO)と表示するというものだ。しかし、3月27日に官報公示された最終版の第4.2.1.1条には、代替品ではなく模倣品(Procudto de Imitación)という表示にしなければならないと規定された。これにより、「カルボナーラ・パスタソースの『模倣品』」(大文字でIMITACIONと掲出する)という表示とすることが決定した。
輸入品に対しても食品表示ラベル規格の強化を適用
改正NOM051は輸入品にも適用される。つまり、外国から輸入される食品・非アルコール飲料も、含有栄養成分が基準値上限以上であれば、国内で販売するために対応が必要となる。メキシコの輸入者は、まず自社が輸入している(または今後輸入予定の)商品の栄養成分を、輸出者やメーカーから提供してもらい、対応が必要な商品かどうかの仕分けが必要となるだろう。前述の通り、2020年10月1日~2020年3月31日までは対応が必要な商品の包装にシールを貼付するという作業だけでよいが、4月1日からは包装自体に警告表示が印刷されていなければならない。また、対応義務を負うのは小売販売店ではなく輸入企業であるため、輸入後にメキシコ国内の保税倉庫などでリパックをするか、輸出国のメーカーに包装を変更してもらう必要が出てくる。
他方、基準・認証制度が国際貿易に不必要な障害をもたらさないよう、「貿易の技術的障害に関する協定(TBT協定)」(注)は、その前文においてラベリング規制や包装規制も強制規格に含まれるとしている。また、欧州委員会はメキシコの食品表示ラベル規格の強化策を批判 しており、正当な目的の達成のために必要以上の貿易制限的な強制規格を導入してはならない、というTBT協定第2.2条に抵触するとしている。ただし、ここで考慮すべきは、TBT協定は「正当な目的」の例の1つとして、「人の健康・安全の保護」を挙げているため、メキシコ国民の肥満対策措置である改正NOM051がどのように判断されるかだ。なお、保険一般法(LGS)の第210条は、輸入品も国内流通・販売時には関連規則であるNOMにも従うことを要求しているものの、同時に国際条約・ルールを順守しなければならないと記載されており、メキシコ国内の食品産業界の今後の反応や動向を注視すべきだろう。
- 注:
- 規則調和や相互認証などを設けるための世界貿易機関(WTO)協定上の仕組み。
- 執筆者紹介
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ジェトロ・メキシコ事務所
志賀 大祐(しが だいすけ) - 2011年、ジェトロ入構。展示事業部展示事業課(2011~2014年)、ジェトロ・メキシコ事務所海外実習(2014~2015年)、お客様サポート部貿易投資相談課(2015~2017年)、海外調査部米州課(2017~2019年)などを経て現職。