マイコック産業、ベトナムの省人化・品質安定化のニーズを捉え直接輸出を拡大
中小企業の海外ビジネス、成功の秘訣(石川県)

2019年9月5日

石川県白山市に本社を構え、豚カツ、エビフライなどパン粉を食材に自動付けできる食品加工機械を製造・販売するマイコック産業株式会社(資本金:1,000万円)は、2015年末から海外への直接輸出を本格的に目指し、ベトナムへの輸出を実現した。直接輸出前は売り上げの1割しかなかった海外販売が、今では国内販売と拮抗(きっこう)するまでになった。また、ベトナム輸出を目指したころに受け入れ始めたベトナム人材2人も戦力に育つ。当初から直接輸出の実現に向け、現場に出て陣頭指揮を執ってきた専務取締役の経塚陽一氏に、直接輸出を目指した経緯・理由、ジェトロ支援の活用、ベトナムでのニーズ、成功の秘訣(ひけつ)などについて聞いた(2019年8月2日)。


当初からベトナム・ビジネスの立ち上げを担ってきた経塚専務取締役
(ジェトロ撮影)

海外顧客の声を直接聞くために直接輸出へ挑戦

質問:
海外ビジネスに取り組むようになったきっかけは。
答え:
社長の経塚弘明の鶴の一声だった。背景として、日本では人口減少が訪れる中、われわれ食品を生む機械を作っている会社にとっては、人口減⇒食品の需要減⇒機械需要減とつながるため、海外にチャンスを見いだしたかったことがある。また、当社の製品は海外の機械に比べて、精度が高いことが強みになっている。併せて、2015年前後から、日本食ブームがアジアでも起こり始めたことが追い風となった。
質問:
具体的には、どのように海外ビジネスを始めたのか。
答え:
従来、年に4~5回、営業の一環で、東京などで開催される食品加工機械に係る展示会に出展していた。そこでは東南アジアなどから来場者があり、目に留めてもらっていたが、英語を話せる社員もおらず、自分たちが直接、販売できていなかった。2014年ごろ、ジャパン・インターナショナル・シーフードショーに出展し、そこでエビフライに衣付けする機械が、ベトナム地場水産加工会社の会長の目に留まり、導入を即決してくれた。そのベトナムの水産会社へは、ある日本の商社(以下、国内販売店)経由で販売したが、顧客との関係が直接持てず、メーカーとしてはもどかしい思いを抱えていた。もともと海外販売は、国内販売店を通して、海外へ製品が細々と輸出(間接輸出)されていたが、自ら直接輸出していきたいと、取引先の北陸銀行国際部に相談したところ、ジェトロ金沢を紹介された。2015年末からジェトロの支援を受けながら、独自の海外販路開拓が始まった。
質問:
国内販売店経由による輸出から、自社による直接輸出へと切り替えを決断した理由は。
答え:
これまでタイ、台湾、韓国、中国、シンガポールなどへ、当社の機械が国内販売店経由で販売された。輸出には変わりないが、売って終わりになってしまう。つまり、海外顧客(ユーザー)による当社機械の使われ方、使用状況、不具合などに関する情報が入ってこない。現地の工務店でモーターなどの部品の交換はできても、機械全体の調整まではできないが、その状況も分からない。海外顧客と、自分たちとの間に隔たりがあった。加えて、自分たちが絡んでいないと、海外で機械をコピーされてしまう恐れもある。日本と同じように、海外顧客の声を直接聞き、より良い状態で機械を使ってほしい、というのが、自分たちで直接輸出していこうとした理由だ。その取り組みの成果もあり、現地海外顧客とも良い信頼関係を築けている。

ジェトロ専門家の知見を活用、最後に決め実行するのは自分たち

質問:
ジェトロからはどのような支援を受けたか。
答え:
ジェトロとの関係は、2015年末から始まったが、2016年度から新輸出大国コンソーシアムの認定企業となり、海外販路開拓に詳しい専門家のサポートを受けた。支援期間中、ベトナムでの独占販売店(地場企業)を見つけることができ、直接、海外取引が始まった。きっかけは、年1回、ベトナムで開催されている水産関連展示会「ベトフィッシュ」へ、ジェトロの支援を得て出展したことだった。2015年度から出展し、販売店を募集、最終的には2回目の2016年度の同展示会において販売店の候補に出会った。(経塚氏本人が)ベトナムへ行き、展示会後に英語のメールを受け取った。販売店選定の過程では、ジェトロ専門家と相談して対応した。販売店が決まった後は、実際に輸出するための貿易実務や決済方法などについて、ジェトロ専門家のサポートを受け、一連の手続きを決め、現在ではその枠組みに沿って取引している。
質問:
当初、海外ビジネスの壁になっていた英語はどのように対応したのか。
答え:
国内営業の傍ら、輸出に係る貿易実務などを担当している課長が、英語を学び直してメールを読んだり、書いたりして対応した。ジェトロ専門家の支援を受けたが、結局、最後は自力でやるしかない。英語もそうだが、その他の現地販売店を決めたり、実務の手続きを決めたりすることに関しても、専門家が言ったことをうのみにするのはよくない。専門家には、海外ビジネスの進め方、商習慣、決済方法など教えてもらったが、結局、自社の状況を理解し、自社にとって最適な方法を判断して実施するのは自分たちであり、専門家に甘え過ぎてはうまくいかないだろう。

堅実な現地販売店を選び、ベトナムの省人化ニーズをつかむ

質問:
ベトナムでの独占販売店を選んだ際の決め手は。
答え:
今の販売店にした決め手は、堅実に営業を進めていく姿勢を理解できたから。ある会社は、ショールームを作って、ベトナム中から顧客を呼び寄せようというアイデアを伝えてきた。将来的にそのような姿になるのは素晴らしいことだが、最初からそういう大きなことを言う販売店だと、自分たちが振り回される可能性もあると感じた。当社の機械は販売・設置したら稼働できるというものではない。原料の違いによる微調整が必要で、取り扱い操作におけるノウハウも必要。販売店と同行営業し、機械を理解いただいた上で、安心感をもって導入いただけるよう、着実に販売していく方を選んだ。現在、ベトナムでの営業は、今の独占販売店が見込み客の情報を上げてきて、当社の見込み客情報と付け合わせて訪問先を決め、アポイントをとって同行営業に行くというスタイルだ。
質問:
ベトナムではどのような会社に対して販売しているのか。どのようなニーズがあるのか。
答え:
販売先はベトナムの地場企業で、エビフライなどのエビ加工品を作っている会社がメインだ。ほかに、メコンデルタの魚を原料としているところもある。当社の機械が売れる要因の1つには、ベトナム水産加工業界も、人材確保難に直面していることがある。賃金が上がっていることに加え、中国に代わる生産拠点として世界から注目され、さまざまな業種が投資してきていること、また、水産加工業は魚のにおいがきついなど3Kイメージがあり、ワーカーは条件の良いところに流れていってしまうことがある。さらに、業界特有の問題として、エビのシーズン(6~12月)は人手を必要とするが、それ以外の期間は逆に人が要らなくなり、翌年また人集めに苦労するという悪循環がある。そのため、省人化できる当社の機械は、現地のニーズにマッチした。省人化効果の例として、エビフライのラインは、もともと50~100人必要だが、当社の機械を使うと10~15人いれば生産できるようになる。省人化に加えて、品質の安定化も、当社製品が受け入れられる要因だ。

ベトナム人材はすでに戦力、将来のベトナム進出も念頭に

質問:
ベトナム販売への対応として、ほかに実施していることはあるか。
答え:
ベトナムへの販売展開を取り組み始めた2015年から、今後の展開戦略を想定し、ベトナム人技能実習生を受け入れ始め、現在2人の実習生がいる。1人は3年間の実習期間が終わり、いったん帰国後に再来日し、追加の2年の実習をしているところで、これが終わったら、特定技能で5年間、働いてもらう予定だ。もう1人は、1年遅れで当社に来た。彼らは機械の製造もできるようになっており、今では戦力である。また、ベトナムからの来客の際は通訳もできるので、お客さまも安心して来日できる。実習生たちも、工場仕事だけでなく、幅広い仕事ができるので、楽しんでいる。外国人材ということで特別扱いしておらず、みな、普通に接し、言葉も交わしている。最初の1人が19歳で初めて来日したときは、寂しくて泣いていたのはかわいそうだったが、今では日本が良いと言っている。
質問:
今後のベトナム進出はあるか。また、ベトナム以外への直接輸出は取り組んでいくのか。
答え:
将来的にはベトナムに、修理・メンテナンス拠点を作り、製造もできるようになればと思っている。そのときに、ベトナム人材の2人には現地で関わってもらえたらと思っている。しかし、ベトナムに拠点を作るのは、出荷台数がポイントになる。ベトナムは近いので、飛行機ですぐに出張でき、今は拠点設置の必要性はない。現在のベトナムの顧客は、ベトナム南部のメコンデルタ地域に集中しており、1週間もあると顧客を回ることが可能だ。また、タイなどベトナム以外の国からも引き合いは多いが、取り組めていない。まずはベトナムで足元を固めてから、他国を考えていきたい。

足元の国内ビジネスにもしっかり取り組むからこその海外ビジネスと認識

質問:
海外ビジネスに自ら取り組み始めてから業容は拡大したか。
答え:
2015年ごろの社員は10人であったが、現在、20人に社員が増えた。また、自社では板金が追い付かないので、外注先も使うようになっている。省人化に資する機械を作るための機械はオートメーションではなく、手間がかかる。海外ビジネスはゆっくり伸びており、自分たちの身の丈に合っていると思っている。売り上げで見ると、直接輸出を始める前は、国内販売が9割、海外販売が1割であったが、今期の海外販売はベトナムを中心に好調で、国内販売と海外販売の比率は6対4か、半々の比率になりそうだ。
質問:
海外展開を順調に、着実に進めている秘訣は。
答え:
海外販売の調子が良いからといって、海外に重きを置き過ぎないことだ。海外の情勢は、いつ変わるか分からない。これまで通り、国内ビジネスを基本としながら、海外ビジネスもやっていくということだ。国内向けの機械の開発もやっている。品質・安全性など、さまざまな面において、ベトナムより日本の方が明らかに進んでいる現状において、日本のニーズを満たす製品を作り続けることが、海外でのビジネスでも成功していく上で大事なことだ。
海外のビジネスに取り組む上においても、国内と同様、お客さまの声をダイレクトに聞くことが重要だ。「市場調査」というと固い言葉になるが、お客さまの声を聞くことが大事であり、当社としては展示会に出ることが、情報収集として貴重な場と認識している。最初に当社の機械を導入いただいたベトナム地場水産加工会社の会長から、「丸まっているエビの筋を自動で切って伸ばすことができる機械があれば、もっと売れるのに」と言われた。その後、筋切りマシーンを開発し、今はそのPRもしているところだ。ベトナム向けに伸びているのは、ベトナムのお客さまの声を聞き、ニーズがうまく合ったということだろう。

マイコック産業の外観(石川県白山市:ジェトロ撮影)
執筆者紹介
ジェトロ海外調査部アジア大洋州課長
小島 英太郎(こじま えいたろう)
1997年、ジェトロ入構。ジェトロ・ヤンゴン事務所長(2007~2011年)、海外調査部アジア大洋州課(ミャンマー、メコン担当:2011~2014年)、ジェトロ・シンガポール事務所次長(2014~2018年)を経て現職。 編著に「ASEAN・南西アジアのビジネス環境」(ジェトロ、2014年)がある。