ミクロン精密、「蔵王から世界へ」を掲げて世界30カ国以上へ輸出(日本)
中小企業の海外ビジネス、成功の秘訣

2019年8月5日

山形県に本社を構える研削精密機械メーカーのミクロン精密は、売り上げの半分を海外に依存しつつも、ものづくりは精度を確保するため、蔵王の工場にこだわる。そこから世界30カ国以上に輸出し、米国とタイには営業、メンテナンスサービスの拠点も設置している。自ら米国法人社長も経験したことがある代表取締役社長の榊原憲二氏に、同社のものづくりへの思いや海外ビジネスを進める上での課題、外国人材を生かした海外ビジネスの進め方・考え方、成功の秘訣(ひけつ)などについて聞いた(2019年6月27日)。


経営トップの海外ビジネスへの関与が大事と説き、
自らも頻繁に海外出張する榊原社長(ジェトロ撮影)

みなが海外進出する中、山形でR&D施設、加工工場を設置

質問:
まず、会社の概要、取り扱い製品について。
答え:
当社は、山形市蔵王上野に本社工場を構える研削精密機械メーカーである(注)。「センタレス研削盤」という部品の外側を丸く削る機械と、「内面研削盤」という部品の内側を丸く削る機械を開発、設計、製造、販売している会社だ。当社の機械は、自動車、家電、産業機械、航空機などに使われる「真円」を求めた部品を製造するメーカーによって、導入・活用されている。例えば、自動車の燃料噴射装置に組み込まれる超精密部品や新幹線の高速化と静音化につながる精度の高いベアリングを加工するために、当社の研削盤が使われている。
質問:
海外展開の取り組みは。
答え:
これまで、「蔵王から世界へ」をキーワードとして、海外ビジネスに取り組んできた。「蔵王で培った研削技術・技能と人柄を世界へ発信し、顧客利益の最大化を目指す」ことを経営理念に掲げ、それを通して、地元経済に貢献することを目指して経営してきた。現在、海外30カ国以上に当社製品を輸出している。また、海外拠点としては米国ミシガン州とタイ・バンコクに現地法人を有し、営業やメンテナンス・サービスを行っている。現在、当社の売り上げの半分は海外に依存している。海外の顧客・エンジニアが山形に当社製品を見に来るが、そのような機会に山形を知ってもらい、おいしい食事を食べ、お酒を飲んでもらって、山形を良いところだと思ってもらえたらうれしい。
質問:
なぜ、海外に製造拠点を設置しないのか。
答え:
当社は、部品を作るための精密機械を作っている会社だ。当社の精密機械の製造において精度を確保するためには、ここ山形でしかできないと思っているので、海外へは行かないし、行くことができない。つまり、当社製品の製造に求められる技術・技能を持っている人材が海外にはいないということでもある。また、当社は、海外で製造している他社製品に部品をタイムリーに供給することが求められる部品メーカーではなく、資本財を製造しているメーカーのため、現地に製造拠点を持つ必要性が高くないこともある。一方、当社は今から6年前の2013年、多くの企業がタイやインドネシアなどへ進出していき、国内で投資をするような会社がなかったころ、本社近くの上山市蔵王みはらしの丘に「R&Dセンター」を設立した。さらに、その2年後、R&Dセンターの横に、最先端加工機械を設備した「みはらし工場(加工工場)」を新設している。今後も、山形の蔵王で、ものづくりを続ける。

タイの現地法人が東南アジアのビジネスをカバー

質問:
2011年にタイに現地法人を設立しているが、その経緯は。
答え:
ある日系自動車部品メーカーのタイにある工場が、2003年に高度な機械をまとまった単位で購入してくれたことがきっかけとなった。その工場は24時間稼働のため、メンテナンスサービスをどうするかという話になり、当初は組織のリソースを勘案して拠点はつくらず、サービスエンジニアを日本から出張させることで対応することにした。タイへせっかく行くなら、営業もできるサービスエンジニアを出張させるということになり、2003年から対応を開始した。次第にビジネスが拡大し、2011年3月に現地法人を設立するに至った。そのすぐ後の10月、タイで大洪水が発生した。当社顧客の工場も被害を受けたため、緊急の対応が求められ、15人前後を年末に派遣する事態となった。しかし、当社の顧客が、当社を必要としてくれるタイミングで現地に進出していたことは、当社としてもうれしいことであった。
質問:
タイやその他の東南アジア諸国におけるビジネスはいかがか。
答え:
東南アジアの顧客は、基本的には進出日系企業だ。タイは自動車部品メーカーが中心。ベトナムとインドネシアも最近ビジネスが伸びているが、やはり自動車部品メーカーが中心だ。ベトナムから、中国などへ輸出する部品メーカーもある。インドネシアやフィリピンでは、家電や事務機器メーカー向けにも納入している。シンガポールやフィリピンには、ドイツや米国資本の顧客もいる。東南アジアはもともと日本からビジネスをしていたが、現在は、タイの現地法人が東南アジア全域をカバーしている。タイ拠点には、日本人3人、タイ人4人の7人がいる。
質問:
最近、特にビジネスが伸びている国はあるか。
答え:
現地法人のある米国をはじめ、欧州、中国などがこれまでビジネスの大きい国・地域であったが、最近では、インドのビジネスが伸びている。インドでは、自動車や鉄道向けベアリング製造用に、当社機械を購入する需要が増えている。インドのビジネスについては、日本からカバーしている。インドでビジネスをする上での注意点は、アジアと思わない方がよいことだろう。(榊原社長自身)米国の現地法人社長を務めた経験があり、欧州でのビジネスにも携わった上で、インドを知った。多くの日本企業は中国、東南アジアの後にインドを知ると思うが、私はアジアを知る前にインドを知った。インドの価格交渉ではアジア的な部分もあるが、きちんとした西洋的ビジネス慣習があることが特徴だ。インドはヨーロッパの東端と理解した方が、ビジネスをする上ではよいと思っている。

海外ではサービススタッフ育成が課題、本社では外国人材も

質問:
海外拠点運営の難しさはどのような点にあるか。
答え:
海外拠点のサービススタッフの現地化が難しい。いかに現地のサービススタッフを確保し、長く働いてもらい、技術力を上げてもらうかが課題だ。米国には進出してから30年が経つが、雇っては辞められることを繰り返してきた。しかし、ようやく15年勤めている米国人が育ってきた。現在は、社長も米国人に引き継いだ。やはり現地のマネージメントは、米国人に任せた方がよい。タイについては、サービススタッフ2人がタイ人。3年と5年勤めているスタッフがいるが、定着率は比較的よい。また、日本には約240人の社員がいるが、米国駐在経験者が15人となった。全員が技術者であり、帰国後は技術関係の重要な責任を担ってもらっている。今後は、技術を理解しつつ、海外法人のマネージメントもできる人材を育成することも課題だ。
質問:
日本の拠点では外国人材を雇用しているか。
答え:
基本的には、山形本社は日本人社員だが、3人の中国人がいる。このうち2人については、現在、中国市場向けのサービス・営業チームに属している(日本人女性営業1人を加えた3人のチーム)。中国人は、ビザなしで中国に滞在することができるメリットがあり、3カ月交代で中国へ出張している。日本人女性は月1回程度、中国へ出張している。基本的に、中国人を相手にビジネスをするのは、中国人の方がよいと思っている。中国は地場の建機メーカーを中心にビジネスをしているため、中国人対応が必要だが、在中国日系企業とのビジネスでも、日本人がいないケースも多く、中国人対応が欠かせない。

経営トップの海外ビジネスに対する理解が必要

質問:
海外ビジネスを展開する上での秘訣は何か。
答え:
海外ビジネスに対する経営トップの関与だろう。やはり自分自身で海外へ行かないと分からない。海外へ行き、海外の顧客と話しながら、時には食事をしながら教えてもらうことも重要で、それでこそ現場の肌感覚が身に付く。例えば、メキシコへ出張したときのことだ。トランプ大統領が登場したころに出張したときは新NAFTA(USMCA)を恐れる声があったが、最近出張したときには、新NAFTAの影響があまりないことを現地で理解できていることを感じ取った。現地では落ち着きを取り戻しており、企業は投資し始めていた。こうしたことは現地へ行くと分かることだ。

注:
ミクロン精密株式会社は、1958年9月に中川精機株式会社山形工場として創業し、1961年10月に前身となる中川精機製造株式会社が山形県山形市東原町に設立された。1968年5月に同社の商号を現在のミクロン精密株式会社に変更し、同年9月には現在の山形市蔵王上野に新社屋・工場を開設して本社を移転、現在に至る。
執筆者紹介
ジェトロ海外調査部アジア大洋州課長
小島 英太郎(こじま えいたろう)
1997年、ジェトロ入構。ジェトロ・ヤンゴン事務所長(2007~2011年)、海外調査部アジア大洋州課(ミャンマー、メコン担当:2011~2014年)、ジェトロ・シンガポール事務所次長(2014~2018年)を経て現職。 編著に「ASEAN・南西アジアのビジネス環境」(ジェトロ、2014年)がある。