第51回ASEAN経済相関連会合の主要成果
第4次産業革命支援に向け、ASEAN・日・韓・米などが取り組み表明

2019年10月1日

バンコクのシャングリラホテルで9月3~10日、第51回ASEAN経済相会合と関連会合が開催された。会合後に発出された共同メディア声明文(JMS)は、1年間の取り組みの成果を示す基本文書であるほか、ASEANに対する各国の関心分野や思惑を推し量る上でも重要な資料となる。各会合のJMSから、そのポイントを概説する。

第4次産業革命への対応に力点

9月6日に開催された第51回ASEAN経済相会合(ASEAN Economic Ministers Meeting、AEM)では、2019年のASEAN議長国タイのイニシアチブで進捗状況報告したほか、経済統合の分野別の進捗も示された(声明文PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)(273KB))。

タイはASEAN議長国アジェンダとして、「持続可能な社会のための連帯高度化」を掲げている(2018年12月21日付ビジネス短信参照)。声明文では、13の取り組みのうち、ASEANインフラ金融メカニズム、ASEAN持続可能金融市場ロードマップの完成を歓迎するとともに、「インダストリー4.0に向けたASEAN産業転換宣言」「第4次産業革命に向けた技能労働者・専門サービス開発ガイドライン」「ASEAN零細企業デジタル化政策ガイドライン」の3つの文書に合意した。

従来のASEAN経済共同体(AEC)構築にかかる経済統合分野別の進捗は以下のとおり(表)。ASEAN物品貿易協定(ATIGA)については、原産地証明書(フォームD)の電子交換措置に新たにブルネイ、カンボジアが加わり、残るフィリピン、ラオス、ミャンマーも2019年内参加の見込みであることや、原産地自己証明制度の導入に向け、原産地証明にかかる運用取り決め書である「運用上の証明手続き書(OCP)」の改定版に大筋合意した。また、ASEAN自動車製品の検査結果などの相互受け入れ(MRA)措置については、今会合での署名は見送ったものの、2019年中の署名への期待を表明した。その他、知的財産分野で第4次産業革命を推進するような特許出願の審査を早める措置に合意し、電子商取引分野でも、デジタル経済への中小企業などの参画を促す行動計画に合意するなど、新分野における取り組みが進んでいることが示された。

表:第51回ASEAN経済相会合の主要成果

物品貿易-ASEAN物品貿易協定(ATIGA)
分野 内容 宣言文
対応箇所
電子フォームD 現行実施国(インドネシア、マレーシア、シンガポール、タイ、ベトナム)に加え、新たにブルネイとカンボジアが電子フォームDの運用を開始したことを歓迎。残る3カ国(フィリピン、ラオス、ミャンマー)についても2019年内の参加に向け、よい進捗が見られると評価。 9パラ
自己証明制度 ASEAN自己証明制度を運用するため、ATIGAの条文修正(第1改定議定書、2018年署名済み)に加え、運用上の証明手続き書(OCP)の改定作業を進めていたところ、今次会合では当該改定版を大筋で採択。2020年3月までの制度運用の開始を目標としているところ、ATIGA第1改定議定書の批准を急ぐとした。 14パラ
一般見直し ATIGAの一般見直しにかかる趣意書(Terms of Reference, TOR)を採択。域内貿易にかかる障壁の引き下げ、域内貿易投資の推進のため、ATIGAの各条文のアセスメントを行うことを規定。 15パラ
物品貿易-貿易円滑化
分野 内容 宣言文
対応箇所
非関税措置(NTM) 貿易歪曲(わいきょく)効果是正のための非関税措置(NTM)ガイドラインの運用開始、およびASEAN加盟各国における国家貿易円滑化委員会(NTFCs)の機能強化に向けた努力を賞賛。 17パラ
税関統合 ASEAN各国のAEO制度の相互認証に向けた作業を開始するため、ASEAN税関局長会合の下に作業部会が設置されたことを歓迎。 18パラ
ASEAN税関トランジットシステム(ACTS) 2020年4月までの完全運用開始を目指し、南北回廊においてマレーシア、シンガポール、タイの3カ国が、また東西回廊においてカンボジア、ラオス、ベトナムの3カ国が、それぞれ試験運用を行っていることを歓迎。 19パラ
物品貿易-基準調和
分野 内容 宣言文
対応箇所
良き規制慣行(GRP) 2018年に採択された「ASEAN GRP基本原則」に基づき、「ASEAN GRPガイドライン」の作成が完了したことを歓迎。 21パラ
分野別相互認証(MRA) 建築資材:ASEAN域内相互認証に向けた議論の進捗を歓迎し、2019年内の早期妥結を期待。
自動車製品:長年の懸案事項であった対象分野が定まったことを歓迎し、2019年内の署名を期待。
21パラ
サービス貿易
分野 内容 宣言文
対応箇所
ASEANサービス貿易協定(ATISA) 全加盟国の2019年中の署名完了に期待するとともに、非適合措置のスケジュール表(ネガティブリスト)提出にかかる作業計画を完了させるように関係者に指示。 22パラ
ASEAN投資・サービス・貿易解決システム(ASSIST) 物品貿易措置に加え、新たにサービス貿易分野においても2019年5月よりシステムの運用を開始。政府の措置に対し異議がある場合にシステム的に明確化を求めることが可能に。 23パラ
投資
分野 内容 宣言文
対応箇所
ASEAN包括的投資協定(ACIA) 第4改定議定書の妥結を歓迎し、2019年中の署名完了に期待。議定書の改定により、WTOで定めた貿易関連投資措置(TRIMs)の約束を上回る水準で、パフォーマンス要求(投資を行う/継続する条件として特定の措置の履行を強制すること)の禁止を盛り込んだ。 26パラ
知的財産権
分野 内容 宣言文
対応箇所
ASEAN特許審査協力(ASPEC) ASPEC第4次産業革命インフラ・製造業加速プログラム(ASPEC-AIM)を2019年8月に開始。今後ASEAN各国は、同プログラムに基づき、当該分野に関する国際特許分類(IPC)に該当する特許出願を優先して審査し、6カ月以内に処理をすることとなる。 35パラ
電子商取引
分野 内容 宣言文
対応箇所
ASEANデジタル統合枠組み(DIF) 同枠組みの優先取り組み事項を定めた行動計画(DIFAP)2019~2025に合意。同行動計画は2年に1度見直しが行われるものとされ、11月に開催されるASEAN経済共同体(AEC)カウンシル会合にて採択が行われる。 37パラ

出所:第51回ASEAN経済相会合(AEM)共同メディア声明文からジェトロ作成

日本:「日ASEAN第4次産業革命対話」の創設を提案

9月7日の第25回日本・ASEAN経済相会合(AEM-METI)では、経済・社会課題の解決を核とする新たな対話枠組みの創設提案が行われるとともに、ASEANの経済統合措置に関する個別協力の強化が打ち出された(声明文PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)(550KB))。ポイントは以下のとおり。

  • 「日ASEAN第4次産業革命対話」の創設:世耕弘成経済産業相(当時)から、(1) デジタル技術を活用することにより解決できる社会・経済課題の特定、(2) デジタル技術の社会実装を行っている企業事例の共有、(3) イノベーション技術や社会に広く適用可能なビジネスを推進するような政策のあり方について議論を深めることを目的とする新たな対話の創設を提案し、ASEAN経済相から歓迎された。
  • ASEAN経済統合措置に関する個別協力:電子商取引分野の法規制枠組み構築のためのASEAN当局関係者の能力開発、ASEANシングルウインドウ(ASW)の高度化など、日本がASEAN経済統合措置に対する個別協力を強化する重要性を強調。
  • ASEANに対する産業界の提言・協力活動を歓迎:ASEAN日本人商工会議所連合会(FJCCIA)が行った貿易円滑化・労務産業人材育成・データガバナンスを柱とする提言に留意するとともに、日本商工会議所、ジェトロが核となって実施した日ASEANイノベーションネットワーク(AJIN)の下での各種イベント、日ASEAN共同実証事業、政策提言の結果を評価。

韓国:デジタル・イノベーション分野の協力を提案

9月9日の第16回韓国・ASEAN経済相会合(AEM-ROK)では、韓国側が第4次産業革命分野の標準化協力や、韓ASEAN産業イノベーションセンターの設立を提案し、いずれも歓迎された(声明文PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)(239KB))。ポイントは以下のとおり。

  • 第4次産業革命分野の標準化協力を提案:韓国側から、(1) 第4次産業革命に向けた標準化協力イニシアチブに関する合同調査、(2) 韓ASEAN標準化合同調査センターの設立の2つを提案。
  • 韓ASEAN産業イノベーションセンターの設立提案:同じく韓国側から、合同R&D、技術移転、ODA事業の形成を行う核として、韓ASEAN産業イノベーションセンターの設立を提案し、協議を深めていくことを確認。
  • 韓ASEAN記念サミットの開催:韓ASEAN記念サミットと関連イベント(韓国ASEAN CEOサミット、韓ASEANビジネスカウンシル総会、韓ASEANビジネスエキスポ)が11月25、26日に開催されることを確認。

中国:中ASEAN FTAの進展に留意

9月9日の第18回中国・ASEAN経済相会合(AEM-MOFCOM)では、8月1日に適用が始まった中国ASEAN自由貿易協定(ACFTA)の新たな原産地規則(2019年8月1日付ビジネス短信参照)など、同FTAの進捗が確認されるとともに、インフラ開発計画(中国の「一帯一路」、ASEANの連結性基本計画)の相乗効果の創出などについても議論が行われた(声明文PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)(221KB))。ポイントは以下のとおり。

  • ACFTAの進展:前述の原産地規則の適用を含むACFTA高度化議定書の全締約国での発効を歓迎するとともに、物品貿易分野のさらなる自由化に向けた議論を開始するとしたACFTA合同委員会の決定を歓迎。
  • インフラ開発計画間の相乗効果の創出:金融・運輸・インフラ分野での中国のASEAN統合に向けた協力に対し謝意を表明。前述の中国とASEANのインフラ開発計画の間で、地域資源の活用を通じたウィンウィンの協力関係を構築し、ASEAN共同体構築を強化するような相乗効果創出に向けた継続的な努力を歓迎。
  • 第2回中国国際輸入博の開催:11月5~10日に上海で開催される第2回中国国際輸入博覧会がASEAN産品のショーケースとなるとして歓迎。

米国:貿易円滑化面の継続的協力のほか、デジタル分野でも存在感を発揮

9月9日の米国・ASEAN経済相会合(AEM-USTR)では、「イノベーション・貿易・電子商取引を通じたASEANの包摂的成長のための米ASEAN協力パッケージ」(ASEAN-USAID IGNITE)に基づく協力が進展したことに謝意が示され、ASEAN情報通信相を米国に招聘(しょうへい)するロードショーの開催に期待が表明された(声明文PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)(122KB))。ポイントは以下のとおり。

  • ASEAN-USAID IGNITEに基づく協力:ASEANシングルウインドウ(ASW)への未参加国が2019年中にASWの運用を開始すべく支援している点や、その発展形としてASWを米国との間にまで拡張するような対話を検討している点を評価。8月15、16日に労働や環境など、FTAの新たな要素に関するハイレベル政策対話を実施した結果に留意。
  • US-ASEAN Connectプログラムに基づく協力:US-ASEAN Connectは、エネルギー、イノベーション、政策、産業協力の4分野に注力した協力パッケージとして、2016年に打ち出された(US-ASEAN Connect外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます )。今次会合では、米ASEANビジネスカウンシルと連携したASEAN7カ国の米系企業でのインターンシップ事業の継続につき謝意が示された。
  • ASEAN情報通信相ロードショー: 11月18~22日に、デジタル経済にかかるASEAN情報通信相のロードショーを米国で実施することに期待が示された。

インド:ASEANインドFTAで各種進展を確認

9月10日の第16回インド・ASEAN経済相会合(AEM-INDIA)では、インド・ASEAN・FTA(AIFTA)の要素であるサービス貿易協定(AITISA)、投資協定(AIIA)、物品貿易協定(AITIGA)でそれぞれ進捗を確認した。インド・ASEANビジネスカウンシルの提言についても歓迎した(声明文PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)(KB))。ポイントは以下のとおり。

  • AIFTAの進展:サービス貿易協定の全加盟国による批准が2018年に完了したことを歓迎したほか、投資協定の早期批准への期待も表明した。物品貿易協定については、よりユーザーフレンドリーで、簡素で貿易を促進するような方向で、協定のレビューを開始することと、その作業を進めるために合同委員会を設置することに合意した。
  • 共通の利益を有する分野での協力深化:インド・ASEANビジネスカウンシルによる、AIFTAの活用促進に向けた提言や、連結性、スタートアップ、イノベーション、若者・女性のエンパワーメント、中小零細企業支援など、共通の利益を有する分野における協力提言を歓迎。10月にマニラで開催される第4回インド・ASEANビジネスサミットに対する支援も確認した。
執筆者紹介
ジェトロ・バンコク事務所
蒲田 亮平(がまだ りょうへい)
2005年、ジェトロ入構。2010年より2014年まで日ASEAN経済産業協力委員会(AMEICC)事務局次席代表を務めた後、海外調査部アジア大洋州課リサーチマネージャー。2017年よりアジア地域の広域調査員としてバンコク事務所で勤務。ASEANの各種政策提言活動を軸に、EPA利活用の促進業務や各種調査を実施している。