食品サンプル製品と文化を輸出、岩崎模型製造の海外展開(シンガポール、日本)
中小企業の海外ビジネス、成功の秘訣(岐阜県)

2019年8月21日

食品サンプルの製造・販売を手掛ける岩崎模型製造(本社:岐阜県郡上市)は、最初の海外展開先にシンガポールを選んだ。ジェトロ岐阜は7月26日、同社の小酒井誓吾社長に、海外展開事業のきっかけや現状、今後の展望についてヒアリングした。


同社の食品サンプル(ジェトロ撮影)

海外展開のきっかけは観光客の笑顔

岩崎模型製造は、岐阜県郡上市に本社を構える食品サンプルメーカーだ。「食品サンプル産業のパイオニア」とされる岩崎瀧三が1932年(昭和7年)に創業した「岐阜工場」をルーツとし、現在では「いわさきグループ」として全国各地に支店・営業所を置いている。同社が製造工場の隣で運営する「サンプルビレッジ いわさき」では、一般の人たちが手軽に食品サンプルの製作を体験できる。

この「サンプルビレッジ いわさき」が海外へ事業を展開するきっかけを与えた。「弊社の食品サンプルづくり体験所を訪れる外国人が驚きながら食品サンプルに触れる姿を見て、海外でも一定の需要があるのではと考えた」と小酒井氏は話す。そこで、日系外食産業の進出数や食品サンプル文化の受容性などを考慮し、香港とシンガポールをターゲットに据えた。2017年に「新輸出大国コンソーシアム」を活用し、ジェトロの専門家の支援を受け、シンガポールの日本食品総合見本市「Food Japan」に出展した。現地のレストラン経営者は握りずしのサンプルを見て、「これをずっと探していた」という。食品サンプルは海外市場で流通しておらず、その経営者はわざわざ日本で買い付けていたのだ。岩崎模型製造はサンプル輸出から始め、現在は完成品を輸出することに成功。今後はベトナムでの拠点設立を狙う。

同社の海外展開の中で特徴的な取り組みが1つある。シンガポールの東急ハンズでのワークショップの開催だ。小酒井氏は「海外での展示会で知り合った企業と意見交換をしていく中で、ストラップなどのサンプルグッズの需要があると分かった」と話す。食品サンプルという文化を海外へ伝えていきたいという思いも重なり、同社は新たな顧客開拓のため、食品サンプルづくり体験をシンガポールの東急ハンズで開催。その場でグッズの販売も行った。グッズの売り上げは上々で、ワークショップは日本同様に家族連れに評判だったという。


シンガポールでのワークショップの様子
(岩崎模型製造提供)

現地の感覚に合わせるも、「思い」は理解してもらう

食品サンプルを見た人が「おいしそう」と思うかどうか、その重要な要素の1つが色合いだ。同社は色合いの表現技術には自信を持つが、海外展開で苦労したポイントだという。「日本人と外国人の色彩感覚は違う。どの色から『おいしそう』と思うかどうかも異なる」ためだ。加えて、取引先との意識の差も大きな課題だ。同社が作る食品サンプルは、単なる「偽物」ではない。「こんなにおいしそうな料理がこのお店にはある」と思わせる、誘客のツールだ。そのため、つや出しや色合いなどにこだわり、「本物よりおいしそうに見せないと駄目」と小酒井氏は語る。取引先には、この意識の差をしっかりと分かってもらうことを重要視しているという。


ダイナミックな構図の食品サンプル
(ジェトロ撮影)

自信を持ち、アピールしていくことが大事

小酒井氏は、海外展開は決して楽なことではないとする一方、「製品だけでなく、文化の輸出にも携わることができることは大きなやりがい」と話す。

海外展開を目指す中小企業へのメッセージとして、小酒井氏は「弊社は製品の質に絶対的な自信を持って、海外事業に取り組んでいる。日本国内でも同じこと。メーカーは製品に対して自信を持っている。それを海外の相手にしっかりとアピールしていくことが大事」と答えた。 海外という大海原の航行には、その自信を少し大きくするぐらいがちょうどよいのかもしれない。


小酒井社長(ジェトロ撮影)
執筆者紹介
ジェトロ岐阜
渡邉 敬士(わたなべ たかし)
2017年、ジェトロ入構。海外調査部アジア大洋州課(2017年~2019年)にて東南アジア・南西アジアの調査業務に従事。
専門はフィリピン・スリランカ。 2019年7月より現職。