東南アジアでも廃プラスチックの輸入禁止へ
使い捨てプラ製品の利用禁止も相次ぐ

2018年10月4日

※東南アジア・南西アジアの輸入規制状況ついて、2019年6月18日記事「東南アジア諸国が廃プラスチック輸入規制を強化、日本の輸出量は減少」を参照


廃プラスチックの行き先が、いまだ定まらない。中国が2017年末に輸入を禁止して以降、アジア各国は新たな輸入先の候補として注目されていた。しかし今、マレーシアとタイでは輸入禁止、ベトナムでは輸入制限措置がとられ、ラオスでも輸入禁止が検討されている。2カ国の輸入禁止措置はいずれも運用ベースだが、今後、法令として確立される可能性もある。

続く輸入禁止、事業者への打撃も

アジアの国々で、廃プラスチックの輸入・利用規制が厳格化しつつある。マレーシア、タイでは輸入禁止、ベトナムでは輸入制限措置がとられ、ラオスでも検討の動きがある(表参照)。

表:ASEAN各国における廃プラスチック輸入規制の状況
輸入禁止 マレーシア 10月下旬まで運用ベースで輸入禁止。
タイ 運用ベースで輸入禁止。
輸入制限 ベトナム 運用ベースで輸入制限。対策強化の方向性。
輸入禁止検討 ラオス 現在は輸入を禁止していないが、検討段階。
出所:
各種報道と関係各局へのインタビュー結果を基にジェトロ作成

輸入禁止に踏み切った2カ国のうち、マレーシアの規制は特に厳しい。国内で廃プラスチックの輸入を行う114の企業および工場に対して発行した輸入許可証(AP)が、7月23日から3カ月間停止となっている。10月23日以降は新たな関税の下、限定的に輸入を許可する見込みだ(9月27日時点)。2018年6月時点で、日本の輸出先1位となっているタイは7月、バンコク港において廃プラスチックや電子廃棄物などを積載したコンテナの荷揚げを禁止した。さらに、ジェトロが工業省工場局に問い合わせたところ、当局がプラスチックごみの輸入ライセンスの発給を一時停止していることが分かった。他方、輸入制限を打ち出しているベトナムでは、ホーチミン市にあるカットライ港とヒェップフック港の2つの港で、港湾管理会社により、廃プラスチックの受け入れを6月1日から一時制限する通知が出されている。3カ国の輸入禁止・制限措置はいずれも運用ベースにとどまっているが、今後、法令として確立される可能性もある。

環境保護のための輸入禁止・制限政策だが、ビジネスは少なからず打撃を被っている。マレーシアでリサイクル事業を行う地場企業A社はジェトロの電話取材に対し、「APが停止されたため、工場が操業不能になっている」と深刻な影響が聞かれた。3カ国以外にも規制強化の動きがある。ラオス商工省はジェトロの問い合わせに対し、天然資源環境省と商工省の間で「プラスチックのリサイクル処理工場の新規建設許可の停止と、廃プラスチック材の輸入停止が議題に挙がっている」と述べた上で、「登録されている68社のプラスチックリサイクル処理企業の存続が危うくなるため、輸入停止は時間をかけて協議する」と回答した。

中国に端を発した廃プラの輸入禁止

アジアで相次ぐ廃プラスチックの輸入禁止の発端は、中国だ。2017年12月31日、「海外ごみの輸入禁止と固形廃棄物輸入管理制度改革の実施計画」が施行され、廃プラスチックを含む環境への悪影響が大きい資源ごみの中国への輸入が禁止された(参考:迷える資源ごみはどこへ行く)。1992年から2016年までの廃プラスチックの全世界輸入量で、中国は約45%を占める輸入大国だったことから、廃プラスチックの貿易構造に大きな影響を与えている。

日本の廃プラスチック輸出をみると、2018年になってから東南アジア諸国向けが急増している。図は2017年と2018年の上半期における日本の廃プラスチック輸出量を示したものだ。2018年に入り、タイ、マレーシア、ベトナムをはじめとしたアジア各国への輸出量が急増している。一方で、中国が96.1%減、中継貿易地となる香港が89.0%減となっており、その他のアジア各国が輸出先代替地となっていることは明白だ。

図:日本の廃プラスチック輸出量(上半期比較)
2017年上半期と2018年上半期の日本の廃プラスチック輸出量を比べると 香港や中国への輸出が激減している一方で、タイ・マレーシア・ベトナムへの輸出量が急増している。
出所:
グローバル・トレード・アトラスを基にジェトロ作成

日本をはじめとする世界からの大量の廃プラスチック輸出を受けて、タイ、マレーシア、ベトナムの3カ国は輸入禁止・制限措置の実施に踏み切ったのだ。

利用規制は世界各国で実施

廃プラスチックの輸入禁止の背景には、プラスチックが引き起こす環境問題がある。廃プラスチックは、工場の処理能力を超えてしまえば海に流れ出る。中でも、5ミリメートル以下の「マイクロプラスチック」は魚や海鳥も口にしてしまうことから、最終的には生態系を通して、食卓に行きつく可能性が指摘されている。タイ、インド、フィリピンなどでは、排水溝にたまった投棄ビニール袋が洪水を引き起こしている。そのため世界中で「脱プラスチック」のうねりが起こっている。

この風潮を受けて、マクドナルドやスターバックス、そして日本のすかいらーくグループなど、グローバルに事業を展開する外食企業が、相次いでプラスチック製ストローの全廃方針を発表している。だが、企業だけではない。各国政府も、プラスチック製品の利用規制を打ち出しているのだ。英国やフランスといった先進国のみならず、ケニアやルワンダといった途上国でも利用規制は存在する(2018年10月4日ビジネス短信参照)。もちろんアジア諸国も同様だ。

インドのモディ首相は2018年6月、使い捨てプラスチックを2022年までに全廃すると発表したが、西部マハーラーシュトラ州は3月23日、これに先駆けるかたちで、「プラスチックおよびポリスチレン製品の製造、使用、販売、移動、取り扱い、保管に関する通達」を出し、同通達は3カ月後の6月23日をもって施行された。施行後には、業界団体などから大きな批判もあったが、現状として流通するプラスチック製品などがなくなりつつある。ファストフード店では、ドリンクを注文しても、ふたやストローがもらえなくなった。クリーニング店においても、これまでは日本と同様に、ビニールのカバーが返却時に掛けられていたが、これがなくなった店もある。

フィリピンの主要都市では以前から、レジ袋などのプラスチック利用を禁止する条例が制定されている。マニラ首都圏のマカティ市やケソン市では利用規制があり、ミンダナオ島ダバオ市ではリサイクル可能なプラスチック袋を当局が推奨、観光地として有名なセブ市でも利用規制法案が審議されている。インドネシアでは、バンジャルマシン市が使い捨てプラスチックを利用禁止としており、他の地方都市でも利用規制草案の作成が検討されている。アフリカのルワンダでは全土で禁止されており、個人による持ち込みも禁止されている。


マカティ市内のスーパーでは紙袋が使用されている(ジェトロ撮影)

相次ぐ規制は商機を生むか

各国でのプラスチック製品の利用規制は、新たな商機を創り出すきっかけにもなっている。インドやフィリピンでは、「生分解性」のプラスチック製品は規制対象となっていない。生分解性プラスチックで作られた製品は、微生物によって分解されることで、通常のプラスチック製品と比べて環境に与える影響は少ないとされるため、利用が許されているのだ。生分解性プラスチック製品は通常のプラスチック製品の3~5倍の価格となってしまうが、需要が今後、高まる可能性は大いにあるだろう。

他方、プラスチックではないものを利用する、という方向性も考えられる。プラスチック製品の大きな利点の1つに、水を通さないことが挙げられる。スーパーで肉を購入した際、中の汁があふれてきた時のために、小さいポリ袋で包む人は少なくないだろう。つまり、「通水性を有さない」点が重宝されているのであれば、素材をプラスチックに限定する必要はない。弁当の容器で言えば、問題は、通水性に加えて重量や価格など、従来のプラスチック製品と同様の利点を有していなければ、代替製品としての価値が薄くなってしまう点だ。壁は高いかもしれないが、化学メーカーや素材メーカーにとっては商機の1つであると言えるだろう。

廃プラスチックは、目的地を見失い旅路をさまよっているが、当分、落ち着くことはできないだろう。タイやベトナムでは、国内にリサイクル工場を新設しようとする動きが活発化しているようだ。しかし、輸入禁止・制限が解かれるのか、法制度化されるのか現時点では先行きは不透明であり、最悪の事態を想定して企業行動を決定することが望ましいと思われる。特に、使い捨てプラスチックの利用規制は、今後も厳格化の方向性が続いていく可能性が高いといえる。人々の環境意識の高まりと各国政府の規制により「脱プラスチック」機運が高まる中、この動向を注意深く追う必要がある。

執筆者紹介
ジェトロ海外調査部アジア大洋州課
渡邉 敬士(わたなべ たかし)
2017年、ジェトロ入構。