海外における日本産食材サポーター店認定制度

日本産食材サポーター店インタビュー 鳥心(TORISHIN)

食材と調理法にこだわって本物の焼き鳥を世界に

所在地:ニューヨーク(米国)

世界の中心で焼き鳥を

ニューヨークで唯一、紀州備長炭を使用する本格的な焼き鳥専門店「鳥心」は2006年に開業した。当初は高級住宅街のアッパーイーストサイドに店を構えたが、9年前よりタイムズスクエアからほど近い繁華街の一角に移転した。周囲には日本企業のオフィスもあり、ニューヨーカー、観光客、ビジネス客の3客層を呼び込めるロケーションだ。白木を基調にした「モダン和」の店内は3フロア、全70席からなり、半地下にあるメインのカウンター席はオープンキッチン越しに坪庭が望めるデザインで京都祇園の小料理屋をイメージさせる。

料理長の河野睦氏は、実家が魚料理店を経営しており、京都で日本料理の修業を積んだのちに同店の立ち上げに抜擢されニューヨークへ移住した。以来、一貫して料理と経営の陣頭指揮を執っている。「京料理ではポピュラーではない『焼き鳥』は私にとっては未知の領域で、最初は少し面食らいましたが、研究してみると奥が深い料理です。今は焼き鳥こそ日本料理と思っています」と河野料理長は語る。素材や調理法へのあくなき探求ゆえに、同店の評価はニューヨークでも群を抜いており、2012年以来7年連続、ミシュラン一つ星に輝く。

伝統炭火焼の極意

「一見誰でも焼けそうなグリル料理ですが、実は温度やうちわ使いによる焼き加減の微妙な調節はベテランの焼き手(職人)でないとできないのです」と河野料理長。そのために同店がこだわるのが紀州備長炭の使用だ。

「紀州(和歌山県)産の最高級備長炭には、他の炭にはない火力と持続力があり、外がパリパリ、中が生に近い『ミディアムレア』で焼いても、鶏肉の奥まで熱が行き渡り、すごく心地良い食感があるのです」と料理長の目が輝く。紀州備長炭を使用し、職人が丁寧な手仕事で焼くからこそ得られる味わいやほのかな炭の香りは、お客さまの共感を生み、同店最大のセールスポイントとなっている。鳥心で焼き鳥の真髄を知り、他店との食べ比べを楽しむなど、焼き鳥の道にハマるニューヨーカーも少なくないという。

味わいを支える日本食材

最高の焼き鳥を提供するために同店は日本産の素材を重視する。メイン食材の鶏肉こそ輸入規制で入手できないが、米国産の中でも日本の地鶏に近いものを使用。それを最大限においしく仕立てるための調味料類は大半が日本産。昆布は北海道、かつお節は九州。味の決め手の塩には沖縄産の海塩を起用している。一方で、焼き鳥を引き立てる前菜や箸休めの食材も日本産品が多い。特に、一階に特別に仕切られた8席のみの小カウンターで振舞われる「焼き鳥割烹コース」で登場する魚介類(イサキ、ホタルイカ、イイダコ、ウニ、サヨリ、ノドグロなど)は全て日本産。「日本の魚は脂ののり方から鮮度まで全て桁違いに良いですね。空輸に数日かかっても新鮮さが落ちないのです」と河野料理長。

春先には、熊本産の若竹(たけのこ)を炭火だけで焼くなど他では味わえない料理も提供する。野菜食材で欠かせないと言えば、静岡産の本わさびだ。3〜4年もかけて育った極太で、いわゆるわさびの清涼感に加えて、奥深い甘みがある。米国産とは比べ物にならない。同店推奨アイテム「サビ焼き」は、極上のササミをミディアムレアに焼いて、このワサビと塩だけでいただく。「鶏肉の甘みをわさびが引き立てるのです。わさびの甘味と相まって口の中に甘さが残る。それを日本酒で一気に流すのが抜群においしいんですよ」と料理長。日本料理の極意は素材の持ち味を生かすことだと語る。

今一番欲しい日本食材は?

料理長にとって今一番使ってみたい食材は、日本産の鶏肉。法律上の問題で、まだ実現までの道のりは遠いかもしれないが、和牛がすでに輸入解禁となっている今、決して夢ではない。

「伊達鶏、比内地鶏、名古屋コーチンなどを使ってみたい。アメリカの鶏肉と一緒に提供して食べ比べてもらうのも面白いでしょうね。焼き鳥をめぐるコミュニケーションが更に深まる。そんな時代が来たら、きっと世界の鶏料理のレベルが格段に上がりますよ」

焼き鳥ファンたちの間では、新潟産の日本酒が人気だという。銘柄では、久保田、麒麟山、緑川、八海山など。純米大吟醸が中心だが、河野料理長自身は、もう少し濃いめのお酒が焼き鳥には合うと考える。「例えば、当店で勧めるのは石川県の天狗舞ですね。色もやや黄みがかった濃厚なお酒ですが、コースがシメに近づいて、つくねなどをお出しする頃には、これが一番です。お酒を料理に合わせながら、あれこれ替えて楽しむペアリングの醍醐味も年々ニューヨーカーは習得しているようです。かなり詳しい人がいますよ」

日々進歩するニューヨークの焼き鳥ワールド。タイムズスクエアに日本の鶏が舞い降りる日が待ち遠しい。

鳥心
362 W 53rd St, New York, NY 10019
(212) 757-0108
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