海外における日本産食材サポーター店認定制度
日本産食材サポーター店インタビュー Kazu's Kitchen
メキシコで日本食文化の発展に寄与したオーナーシェフの存在
所在地:メキシコシティ(メキシコ)

メキシコでの日本食文化を牽引したオーナーシェフの存在
メキシコシティで最たる高級住宅地のひとつであるポランコ地区。各国料理の高級レストランが街中に建ち並ぶこの地区に店舗を構えるKazu’s Kitchenには、30代から50代の男女が多く訪れる。メキシコ人の顧客に加え、イタリア、スペイン、フランスなど、欧州からメキシコに駐在している人々が来店割合の3割を占めている。本物の日本食を求める、美食家である世界中の人々が足繁く通う理由は、料理のクオリティは勿論のこと、ひとりの日本人女性シェフの存在に他ならない。オーナーシェフとして店舗経営と調理に従事する九本和氏は、1969年からメキシコに在住し、メキシコが代表する航空会社「アエロメヒコ」の機内食監督者として10年近くの間、機内食用の日本食を提供する業務に従事した。コスト管理に非常に厳しい条件の中で、メキシコ人の趣向を鑑みながら「上空9,000m」の顧客を満足させる日本食メニューの開発に携わった経験を有する。メキシコの国営テレビ局が放映する料理番組内においては日本料理の紹介を行ったり、大手ホテルの日本食アドバイザーを務めるなど、九本氏はメキシコにおける日本食文化の発展に寄与した代表的な人物のひとりである。
九本氏が手掛ける日本料理は本物志向だ。Kazu's Kitchenでは幅広い食事メニューが設けられ、顧客の多様なニーズに応えている。長年、メキシコで日本料理を提供してきた同氏の下には、昔からのファン達が訪れるようだが、その中には親子三代で来店するような古参客も多く存在する。

長年勤めるメキシコ人従業員の存在
九本氏によると、大半のメキシコ人は濃い味付けを好むという。メキシコシティは2,000mを超える高地であるため、塩味を感じにくいことが濃い味付けを好む理由の一つとして挙げられるそうだ。そのため、醤油を始めとした調味料を食事にかけすぎてしまうことが多く、Kazu's Kitchenでは減塩の醤油を使用するなどして、食事の味が保たれるよう工夫を凝らしている。また高地のため沸点が低く、白米の芯が残りやすいため、炊飯器ではなく圧力釜で炊いて提供している。
メキシコ人にとって馴染みのない日本食材を活かした料理は、九本氏の想いや日本料理を深く理解したメキシコ人従業員が、顧客とのコミュニケーションを通じて事細かに説明している。メキシコ国内の日系企業や飲食店では、度重なる引き抜きなどを通じて従業員の定着化に四苦八苦しているにも関わらず、Kazu's Kitchenで働く従業員の勤続年数は短くとも4、5年。ベテランと呼ばれる従業員は10年以上が九本氏の下で勤務している。「特段、従業員に好かれたいと考え、振舞うことはありません。従業員の仕事に対する姿勢については厳しく管理し、改善点を指摘するようにしています。優秀な従業員については日本への渡航機会を与え、更なる成長や視野を広げてもらう取り組みを行っています」と九本氏は話す。

いまのメキシコは「欲しいものが手に入る」
「昔から変わらない想いがあります。それは『日本食を、本物の味で愉しんで欲しい』ということです」と九本氏は話す。以前は日本食材や飲料の仕入れが非常に困難であったものの、現在では日本食材卸売業者の数が増加し、また仕入可能な食材のラインナップも幅広くなったことから、現在のメキシコは九本氏にとって「欲しいものが手に入る」状況になったという。メキシコ産の食材だけでは、日本料理の繊細な味を表現することは困難であり、食材の仕入れに関しては長年苦労を重ねてきたが、現在の仕入環境を築き上げた卸業者の長年の努力に対して、とても感謝しているとのこと。アルコール飲料のメニューの中には、日本酒だけではなく焼酎も各種用意され、米焼酎まで取り揃えている。カップル客が夕食時に来店した際にはスパークリング日本酒を提供すると、非常に喜ばれるそうだ。
日本産の銀だらを活用したメニューは、多くの来店客から好まれている。その他にはホタテやハマチなども日本産のものを取り扱っている。メキシコ人の顧客に対して、日本食を通じた様々な体験を提供するために、以前は懐石料理のイベントの実施や、日本酒とのマリアージュをコンセプトとした取り組みも行ってきた。

拡大するメキシコの日本食市場の中で、挑戦を続けていく
新型コロナウイルスが猛威を振るう中でも、九本氏は逆境に負けない。オンライン会議システムを活用して、オンライン上での料理教室にも取り組んでいる。同氏は、今後の目標などについて語ってくれた。「これまでメキシコで培った人脈や知識を、次の世代に受け継いでいきたいと考えています。その一方で、近い将来にはメキシコシティ市内や他都市においても新たな店舗を開業しようと考えています」。今年72歳になる同氏は、自身の引退については一切考えてないという。店舗拡大に加え、メキシコ大学院大学でも日本食料理の授業を取り仕切る予定があるようだ。100歳までは、これまで通り仕事に励みたいと話す同氏の表情からは、半世紀以上前から抱き続ける「メキシコで本物の日本食を食べてもらいたい」という想いは衰えるどころか、年々強くなっているように感じる。

Kazu's Kitchen
11560 de, Av. Isaac Newton 105, Polanco V Secc, Miguel Hidalgo, 11560 Ciudad de México, CDMX
55 5280 4818
https://kazuskitchen.com