海外における日本産食材サポーター店認定制度
日本産食材サポーター店インタビュー Ichisou(いちそう)
女性三世代が守り続ける老舗日本料理店
所在地:ブエノスアイレス(アルゼンチン)

異国で決意した日本食の道
アルゼンチンの首都ブエノスアイレスの中心部、国会議事堂近くのバルバネーラ地区に日本食レストラン「Ichisou(いちそう)」はある。周囲は人通りや商業店舗が少なく、住宅が立ち並ぶ静かな通りに面しているため、一見しただけでは日本料理店とはわからない佇まいだ。「いちそう」の名前は創業者夫妻の名前「一」と「操」に由来する。二人の名前を組み合わせて読み替えたのだ。創業者の孫で、三代目として店を切り盛りするオーナーシェフの加納アレハンドラ氏は、「1960年代に水産関連の仕事をしていた祖父が祖母と母を連れてアルゼンチンに渡った。祖父の仕事は長く続かなかったが、祖母が山口県で和菓子やうどん屋を営んでいた経験を活かし、アルゼンチンに残って当時では珍しかった日本食レストランの開業を決意した。そして1966年にレストラン『遊亀(ゆうき)』が誕生した。その後、場所を移しながら営業を続け、1997年に遊亀とは別れて『いちそう』を開店した」といちそう誕生の経緯を語ってくれた。

幅広い客層に求め続けられる伝統の味
人気レストランが集まる地区やオフィス街から少し離れているため、偶然通りかかって入る客は少なく、昼夜ともに事前予約をしてやってくる客がほとんどだ。アルゼンチンで最もオーセンティックな日本の味が楽しめるため、アルゼンチンに駐在する日本人の間で知名度が高い。地元の人々は、アルゼンチンで和食を求める人には口をそろえて「いちそう」を勧めるだろう。
日系人家族や昔からの常連客は、昔から変わらない、安心できる味を求めて足を運ぶ。コロナ禍ではデリバリーサービスも余儀なくされたが、常連客からの注文が相次ぎ、困難を乗り切ることができた。長年の顧客は、日系人家族やビジネスでアルゼンチンに滞在する日本人だが、近年では、本物の和食を求めるアルゼンチン人も増えている。しかし、それ以上に増えているのはアジア人で、中国人富裕層で店内がいっぱいになることもあるそうだ。

家業を引き継ぎ、伝統の味を守り続ける
創業から女性が切り盛りしてきたいちそうの厨房。祖母の味を引き継いだ母の金頭せつ子氏は、70歳を超えた今もなお加熱調理を担当している。姉のマリア・イネス氏は揚げ物を担当。オーナーシェフの加納氏は、アルゼンチンでも珍しい女性板前として寿司を担当する。加納氏曰く、日本のしきたりに従って長男である兄が家業を継ぐものと信じ込んでいたため、その昔は、映画製作の道を進もうとしていた時期もあった。しかし、その兄は新たな挑戦を求めてスペインへ。後継者がいなくなり一度は閉店も考えたが、祖父母や両親が築き上げてきた店をなくしたくない一心で、映画の道は一旦あきらめ、厨房に立って早18年が過ぎた。当初は、料理の道を続けるべきか思い悩んだが、今では調理や運営を任せられながらレストランを守り続けていくことが天職と思えるようになったという。今後も伝統的な味を守り続け行きたいと話してくれた。
提供しているメニューは、和え物、揚げ出し豆腐、焼き鳥、刺身や握り寿司、天ぷら、焼き魚、豚の生姜焼きなどにご飯、みそ汁、漬物、さらにデザートやお茶まで含まれる「いちそうコース」のほかに、定食セット、丼もの、ラーメンやうどん、鍋物、すき焼きなど、豊富な品揃えだ。

今もなお日本産食材の入手が課題
現在、厳しい経済情勢や輸入規制などにより、アルゼンチンで日本産食材を手に入れるのは難しくなっている。昔は、定期的に日本に渡る人たちにトランク一杯の食材や食器類を持ち帰ってもらったり、アルゼンチンで手に入る食材をアレンジして使用したりせざるを得なかったという。料理の味を左右する調味料の中には、醤油やだしの素のように、味を変えないために非日本産では代替できないものもある。海苔も、日本産以外のものは巻物に適さず使いにくい。アルゼンチン人の間でも抹茶が人気で、いちそうでも抹茶アイスを提供しているが、国内には日本産の抹茶がなく、日本産以外では味が全く違うのが悩みだ。日本のビールも知名度が上がり人気だが、入手が非常に難しくなった。日本産、代替品を上手に使いながら地元の人たちの期待に応える毎日だ。

- Ichisou(いちそう)
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Venezuela 2145, Ciudad de Buenos Aires, Argentina
+54-11-2860-3910
https://www.instagram.com/restoichisou(Instagram)