日本産食材ピックアップわさび

根茎だけでなく葉や茎も食用に

わさびは日本原産のアブラナ科の植物です。根茎をおろしたときの強い刺激性のある香味が特徴で、寿司や刺身、そばなどに添えて食されます。同じアブラナ科にはローストビーフの薬味などとして使われるホースラディッシュもあり、区別のためにこちらを西洋わさび、わさびのことは本わさびと呼びます。

わさびはもともと山深い渓流に自生していましたが、400年以上前から農産物として栽培されるようになりました。わさびには湧水などを利用したわさび田で栽培される沢わさび(水わさび)と、涼しい山林中の畑地で栽培される畑(はた)わさびがあります。沢わさびは主に根茎をすりおろして食用にしますが、畑わさびは葉や茎を食用にします。根茎だけでなく葉や茎にも独特の爽やかな辛味と香味があり、漬物などの加工食品として人気です。

栄養たっぷりのきれいな水が作る

沢わさびを栽培するには清冽な水がたっぷり必要で、水温は年間を通じて10℃から15℃ほどが適しています。砂や礫など水がしみ通りやすい土地が適しており、また強い日差しを嫌うので、栽培地が限定される貴重な農産物といえます。

砂や礫などの土地で栽培されたわさびは、土に由来する農地の生産力を発揮させるという有機農産物の生産の原則に適合しないため有機農産物の認証対象とはなりません。しかし、そもそも滋味豊かな湧水などを利用し、つねに水が流れる状態で栽培するため、肥料や農薬をほとんど使わない栽培が可能であり、さらに近年は無農薬などにこだわる生産農家も現れています。また、強い日差しを避けるため、周囲に遮光できる樹木が植えられるなどの栽培環境が整っているわさび田が多くみられます。

一方、畑で栽培される畑わさびは有機JAS認証の対象となります。

静岡の産地は世界農業遺産に認定

沢わさびの二大産地は静岡県と長野県で、この2県の生産量の合計は全国の9割以上を占めています。豊富な湧水と穏やかな気候という点で、生産地としての適応性があったわけです。一方、畑わさびは岩手県の生産量がもっとも多く、全国の6割を占めています。

静岡県伊豆市は明治時代の半ば頃、畳石式という、良質のわさびを栽培する方法を開発し、全国に出荷しており、根茎の生産量では全国1位となっています。

沢を開墾して階段状に作ったわさび田で、肥料を使わず湧水に含まれる養分で栽培する伝統的な農業を継承する静岡県のわさび栽培地域は、「静岡水わさびの伝統栽培—発祥の地が伝える人とわさびの歴史—」として、2017年3月に農林水産大臣が認定する日本農業遺産に、2018年3月には国連食糧農業機関(FAO)が認定する世界農業遺産に認定されています。

わさびの機能性

わさびの根茎をすりおろすと、6-メチルスルフィニルヘキシルイソチオシアネートという成分を得ることができます。この成分には、抗酸化作用や解毒作用、血流改善作用、発がん抑制効果などがあることがわかってきました。また、美肌効果も確認されており、化粧品などにも応用されています。わさびを日々の食生活に取り入れることで、健康にプラスの効果があるといえます。なお、チューブタイプのわさびは、本わさびのほかにホースラディッシュなども加えて調整加工しているので、この効果はほとんど得ることができません。

さて、わさびをすりおろしたときにツーンとする独特な辛味があるのは、アリルイソチオシアネートという成分のためです。この成分は、細菌やカビなどに対して高い制菌効果を発揮することがわかっており、さまざまな抗菌・抗カビ用品にも活用されています。ちなみにきめ細かくすりおろすほど、わさびの細胞組織が破壊されてアリルイソチオシアネートが生成されるため、強い辛味を得ることができます。

わさびが秘める可能性

わさびは、古くは魚の生臭みを消すために用いられました。江戸時代の後期に握り寿司につけたことから広がっていきますが、もとはやはり、生臭みを消したり、細菌の増殖を抑えて食中毒を防げることを経験的に知っていたからだと考えられます。

今や、寿司が世界的なメニューとなってわさびの知名度も増し、和食だけでなく、牛肉のステーキの薬味として添えることも珍しくなく、ローストビーフにホースラディッシュの代わりに用いることもあります。またソースやドレッシングなどに隠し味として使われることもあります。

独特の辛味と爽快な風味は、和食の枠を超え、まだまだ多くの料理に使われる可能性を秘めています。