中国の景気減速、フィリピン経済に大きな打撃はなしとの見方

(フィリピン)

マニラ発

2019年11月18日

中国政府が10月18日、2019年第3四半期の経済成長率は6.0%と、市場予想を下回る27年ぶりの低水準となったと発表したことを受け、フィリピンの複数のエコノミストや政府関係者は中国の景気減速がフィリピン経済に大きな打撃を与えないとの見方を示した。

フィリピンの品目別輸出額で1位の電子製品の業界団体であるフィリピン半導体・電子工業会(SEIPI)のダニロ・ラチカ社長は地元紙「ビジネスワールド」のインタビューに対して、中国はフィリピンにとって電子製品の重要な輸出先の1つとした上で、「中国の景気減速によってここ数年増加している中国向け輸出が天井を打つ可能性があるが、米中貿易摩擦の影響による世界的な生産拠点の配置換えの動きに合わせてフィリピンは新たな輸出先を開拓することで輸出を拡大できる」と説明した。フィリピン統計庁(PSA)によると、フィリピンの電子製品の中国向け輸出額は、2017年に21億9,775万ドル(前年比18.7%増)、2018年に24億1,882万ドル(10.1%増)、2019年1~7月は13億8,082万ドル(前年同期比4.6%増)と、成長率は鈍化傾向にあるが、いずれの年も国別で4位の輸出額だ。

中国の景気減速による負の影響よりも米中貿易摩擦による好影響が大きいとする専門家もいる。アジア開発銀行の関係者は地元紙「ビジネスミラー」のインタビューに対して、米中貿易摩擦によって米国が中国以外の輸入元を開拓しており、2019年上半期の米国による中国を除くアジア諸国からの輸入は前年同期比で9.7%成長したと説明した。フィリピン統計庁(PSA)によると、2019年1~9月のフィリピンの米国向け輸出は前年同期比7.4%増の85億6,883万ドルと、国別輸出先で1位となっている。国家経済開発庁(NEDA)も米中貿易摩擦のフィリピン経済への影響は小さいと見ており、米中貿易摩擦がフィリピンの経済成長率を0.1ポイント減少させるにとどまるという見通しを発表している。

また、フィリピンのアジア太平洋大学准教授のジョージ・マンザノ氏は地元紙「ビジネスワールド」のインタビューに対して、中国政府は景気減速の対応策として消費活性化に力を入れるとみられるとし、「例えば中国国内の自給率が低い食品については、海外からの輸入に今後より大きく依存することになり、フィリピンには商機がある」とした。

ただし、フィリピン経営者協会(MAP)と大手会計事務所PwCフィリピンが2019年9月、国内の127社のCEOに対して実施した「今後1年間の自社の成長のために重要な国はどこか」とアンケートに対して、43%が中国、36%が米国と回答するなど、両国がフィリピン企業にとって重要な国であることには変わりはない。

さらにフィリピン財務省のギル・ベルトラン次官は地元紙「ビジネスワールド」のインタビューに対して、フィリピン経済は内需主導型で、中国の景気減速の影響は大きくないとした上で、「外的要因に左右されないように、フィリピン政府は自国経済の強化のための改革を進めていく」と説明した。フィリピン統計庁(PSA)によると、2018年のフィリピンのGDPの68.5%を民間最終消費支出が占めている。

(坂田和仁)

(フィリピン)

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