メイ首相、英議会でのブレグジット審議で窮地に

(英国、EU)

ロンドン発

2018年12月07日

英国議会で12月4日に英国・EU双方が11月25日に承認したEU離脱(ブレグジット)に関する合意(2018年11月26日記事参照)の審議が始まり、12月6日に最初の3日間の日程を終えた。初日から大荒れの展開となり、合意否決の可能性が高まっている。審議は12月10日に再開され、翌11日に採決される予定。

審議初日には、離脱協定に対する法務長官の法的助言文書の全文公開をめぐり、公開を拒んだ政府を議会侮辱と見なす動議の採決が行われた。与党・保守党に閣外協力しつつ、北アイルランドの「バックストップ」をめぐって合意を強く非難している民主統一党(DUP)の全議員と一部の保守党議員が造反し、動議は可決された。これを受けて政府は翌5日、法的助言の全文を公開したが、バックストップに長期間とどまることを余儀なくされる可能性が指摘されており、議会での反発が一層激しくなっている。

初日にはさらに、保守党のEU残留派の代表格ドミニク・グリーブ元法務長官が、政府の合意が否決された場合には、議会が代替案を事実上決められるようにする動議の採決もあり、野党と一部保守党議員の賛成で可決。メイ政権に大きな打撃を与えた。

地元メディアの報道によると、苦しい立場に追い込まれている政府内では、大差での否決を回避するために11日の投票を遅らせることを主張する閣僚も出てきている。これに対して、メイ首相は6日のラジオ番組で、採決に向けて準備を続けているとコメント。他方でバックストップの発動の際には議会の意向を反映させることを示唆するなど、反対勢力の切り崩しにつながる妥協が模索されているもようだ。

グリーブ元法務長官ら一部の保守党議員や野党のEU残留派も気勢を強めている一方、政府合意が否決されたまま代替案がまとまらずに「ノー・ディール」に至る可能性もぬぐえない。英紙「ザ・タイムズ」(12月5日)によると、政府は歳入関税庁に対し、EUと取引のある英国企業14万5,000社にノー・ディールへの準備を促す文書を送付する権限を与えた。文書では関税システムへの速やかな登録や、新たに発生する書類手続きのための社員雇用の検討、規制対応に必要なソフトウエアの購入などを促しているという。

メイ政権はこの間も議会通過を目指し、12月7日には閣僚や閣外相ら約30人が全国各地を訪問して合意が地域社会にも有益であることを説いて回る。週明けの採決までわずか5日。事態打開は見えないままだ。

(宮崎拓)

(英国、EU)

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