ブレグジット離脱協定の「バックストップ」は英・EUの折衷案

(英国、EU)

ロンドン発

2018年11月15日

英国のEU離脱(ブレグジット)に関わる離脱協定と政治宣言概略の実務レベルでの合意文書が、11月14日午後7時(英国時間)過ぎに英国の閣議で承認された(2018年11月15日記事参照)が、その後、英国、EU双方が両文書を公表した。離脱協定は585ページに及ぶ。

最後まで交渉が難航していたのが、移行期間終了までに、アイルランドと北アイルランドの国境に物理的な管理施設を設けない措置が導入できない場合に発動する「バックストップ」だ。合意案では、このバックストップとして、EUと英国全土を単一の関税区域に置く。これは実質的な関税同盟で、域外に対しては共通の関税と通商政策を適用し、域内ではアイルランド島内、北アイルランドとグレートブリテン島間での関税、数量割当、原産地規則に係る通関手続きを回避する。

さらに、EUが制限する物品が、北アイルランドから流入することを防ぐ検査(あるいはその逆)を回避するため、北アイルランドでは、工業製品、環境、農産品などに関してEU規制を適用し、通関手続きはEU関税法典(UCC)に従うとした。北アイルランドとグレートブリテン島間の検査は、工業製品については、一部の例外を除き、英国当局による市場査察か事業者の敷地内での検査のかたちで行う。動物由来製品と生きた動物については、アイルランド島が単一検疫区域にあることから、現在も空港・港湾で検査が行われていることを土台に、検査の割合を拡大する(現在は10%程度)。

このほか、単一関税区域において公正な競争を担保するため、英国は環境、労働、補助金などについて、原則EUの規定を適用する。

バックストップ終了は、英、EUの双方から成る合同委員会が、状況を評価した上で決定する。英国、EUいずれも相手方の同意なく単独で評価を求めることができる。これについて双方で係争が生じた場合、独立した紛争調停機関が解決する。英国・保守党の離脱強硬派が主張した一方的な終了は認められなかったが、紛争調停がEU司法裁判所(CJEU)になることは回避した。

10月の欧州理事会で浮上した移行期間延長については、2020年7月1日より前に英国がEUに要請すれば、一定期間延長できるとした。バックストップ発動自体を回避するため、英国が決定できる選択肢となった。

北アイルランドとグレートブリテン島との検査などを最小限にとどめる措置が講じられたが、北アイルランドにのみEU規制が適用されることが明確になったため、与党に閣外協力する北アイルランドの民主統一党(DUP)の支持を得るのは、一層困難になったとみられる。

(宮崎拓)

(英国、EU)

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