「バイアメリカン」強化を目指す大統領令に署名-免除規定や貿易協定の譲許見直しも-

(米国)

ニューヨーク発

2017年04月27日

 トランプ大統領は4月18日、バイアメリカン法令の運用を強化する大統領令に署名した。連邦政府の調達や連邦資金の補助事業における米国製品の購入・使用義務を徹底するのが目的。免除規定の運用や、貿易協定による譲許内容が見直される可能性がある。同大統領令には、米国人雇用の維持・促進を目的に、移民国籍法(通称:マッカラン=ウォルター法)の執行・管理の徹底や特殊技能職向け(H-1B)ビザ制度の運用見直しについても盛り込まれた。

連邦資金を利用したプロジェクトも対象

トランプ大統領が4月18日、訪問先のウィスコンシン州で署名した大統領令外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますはバイアメリカン関連法令の運用強化を目指すものだ。バイアメリカン関連法令とは、政府調達において米国製品の購入・使用を義務付ける複数の規定を指す。連邦政府の規定には、連邦調達での国産品の購入・使用義務(注1)のほか、連邦政府が資金補助を行う鉄道や高速道路など陸上交通関連プロジェクトに同様の義務を課すもの(注2)などがある。前者は「バイアメリカン法」、後者は「バイアメリカ条項」と呼ばれる。

今回の大統領令は、「米国製の物品・製品・材料の購入・使用を義務付ける、またはそれらを優遇する」全ての法律・規制などを対象とし、バイアメリカン法とバイアメリカ条項の両方を含む。サービス分野は含まれないが、鉄鋼製品をはじめ全ての製造品が対象となる。

大統領令は、連邦調達や資金補助に係る条件などバイアメリカン関連法令の運用ルールを強化するのが目的で、具体的には、(1)運用状況の評価と米国製品の使用促進策の立案、(2)免除規定の適用限定化、(3)貿易協定が関連法令の運用に及ぼす影響に関する評価、を行うとしている。

運用状況の評価・モニタリングを強化

全ての政府機関はバイアメリカン関連法令の運用状況(免除規定の運用状況を含む)を評価した上で、米国製品の購入・使用を最大化する案を150日以内に商務長官と行政管理予算局長に提出する。商務長官はその後、各機関の提案を取りまとめた報告書(後述する貿易協定の見直し案も含む)を作成し、220日以内に大統領に提出する。

さらに各機関には毎年、バイアメリカン関連法令の運用状況に関する報告書を商務長官に提出することが義務付けられた。商務長官は各機関からの報告を基に、関連法令に関する年次報告書を大統領に提出する。

免除規定の限定的適用を徹底

大統領令では、バイアメリカン関連法令の免除規定の適用も見直すとしている。関連法令は一般的に、(1)米国製品を使うことが公益に反する場合、(2)米国で製造されていないか、あるいは米国製品では必要量を満たせない場合、(3)米国製品を使用した場合のコスト増が一定程度以上ある場合には、米国製品の購入・使用義務を免除する規定を置いている。(3)のコスト増の基準は、関連法令によって異なるが、(1)と(2)は共通して含まれている(注3)。

大統領令は、免除規定は「米国製の物品・製品・材料が最大限使用されることを保証するかたちで解釈されなければならない」とし、免除規定を「賢明(Judicious)」に適用するように各機関に求めた。米国政府幹部は記者会見外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますで、大統領に報告書が提出される220日後を待たずに「免除規定、特に『公共利益に関する免除規定(Public Interest Waivers)』(注4)の大幅な縮小(drastic minimalization of waivers)が行われるべき」であり、「今後、公共利益に関する免除は全てこの大統領令の基準にのっとったものでなくてはならない」としている。

また、関係機関は免除規定の適用を認める前に、外国製品の価格優位性が「ダンピング措置や補助金を受けた鉄鋼・製造品の使用」によりもたらされたものかどうかを確認し、適切と確認した場合は免除規定の適用に係る判断要素に含めなければならないとしている。

貿易協定の見直しを示唆

商務長官と通商代表部(USTR)代表にはまた、自由貿易協定(FTA)やWTO政府調達協定(GPA)など貿易協定での米国の譲許が、バイアメリカン関連法令の運用に及ぼす影響に関して、150日以内に評価するよう求められている。

GPAの加盟国(注5)や米国がFTAを締結している国に対しては、1979年通商協定法に基づき、各協定での譲許内容によりバイアメリカン関連法令の適用が免除されている。これらの国で生産された製品のほか、第三国の部品を使って製造された製品でも「実質的な変更」(名称、特徴、使用方法が元の部品とは異なる製品製造)が行われていれば、当該国の製品としてバイアメリカン関連法令の適用が免除される(注6)。

2月に米政府説明責任局(GAO)が発表したレポートPDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)によると、GPAやFTAなど米国が政府調達を含む内容の協定を結んでいる国は57に上る。GAOの推計(2010年)では、GPAにより開放されている米国の政府調達市場は8,370億ドルで、米国を除く上位5ヵ国・地域(EU、日本、韓国、ノルウェー、カナダ)を合わせた規模(3,810億ドル)の2.2倍になっている。

GAOにこの調査を要請したタミー・ボールドウィン上院議員(民主党、ウィスコンシン州)とジェフ・マークレー上院議員(民主党、オレゴン州)は、トランプ大統領に宛てた書簡PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)(3月10日付)で、「貿易協定の再交渉が行われるまで、外国企業に対するバイアメリカン関連法令の適用免除を停止」するよう求め、特に北米自由貿易協定(NAFTA)から政府調達の免除規定を取り除くよう要求した。

また、ボールドウィン議員は4月6日、州飲料水リボルビング基金(DWSRF)を使用する水処理施設のプロジェクトにおいて、米国産鉄鋼製品の使用を義務付ける法案(S.880)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますを上院に提出している。同議員は、同様の法案を2016年にも提出していたが、ポール・ライアン下院議長ら下院共和党の反対により、最終版の法案からはバイアメリカン規定が取り除かれていた。

そのほか大統領令は、鉄鋼製品が米国産と見なされるためには、「融解から塗装まで全ての工程が米国内で行われていること」が必要としている。この基準は連邦高速道路局など運輸省傘下機関のプロジェクトに適用されており、トランプ大統領がパイプライン建設における米国産鉄鋼製品の使用促進案の策定を命じた1月24日付の大統領令でも採用されている。米国鉄鋼協会(AISI)や米国鉄鋼製造業者協会(SMA)は、この基準を緩和しないよう強く求めている。

米国人雇用維持・促進も対象に

今回の大統領令では、米国人の雇用維持・促進を目的とした「ハイヤーアメリカン」に関する内容も盛り込まれた。国内の労働者により高い賃金と雇用をもたらすために、移民と国籍に関する事項を規定した移民国籍法(マッカラン=ウォルター法)の執行・管理の徹底を促すとともに、必要に応じて新たな制度やガイダンスを提案する意向を示した。

米政府はまた、運用の見直し議論が始まっていた特殊技能職向けビザ(H-1B)制度についても、最も優れた、最も報酬の高い技術者が支給対象となることを担保できるように制度改革を進める見通しだ。

(注1)連邦調達規則(FAR)第25節「国外製品の調達」で規定。具体的には、連邦政府機関が物品(第25.1節)やインフラ事業で使用される建築資材(第25.2節)などを調達する際、物品は米国製であること、建設資材は米国製を用いることと定めている。物品が「米国製」であるためには、米国で製造されること、部品の現地調達比率が50%以上であること、が必要となる。

(注2)連邦高速道路局による高速道路計画に対する補助、連邦鉄道管理局による鉄道車両購入に対する補助、連邦補助を受けている鉄道会社アムトラックによる産品購入などにおいて、それぞれの規定に基づき国内品の購入義務が課されている。また、2009年に成立した「米国再生・再投資法」でも資金を使用するための条件として同様の規定が盛り込まれた。

(注3)各バイアメリカン関連法令の免除規定については、運輸省資料PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)を参照。

(注4)大統領令でも、免除規定を定めたセクションの中では「公共利益に関する免除規定(Public interest waivers)」という言葉が使用されている。バイアメリカン関連法令では通常、「公共利益に関する免除規定」は、免除要件の1つである「(1)米国製品を使うことが公益に反する場合」を指す言葉として使われる。例えば、連邦調達規則(FAR)第25節では、「公共利益に関する免除規定」は、バイアメリカン関連法令に関する「包括的な例外(blanket exception)」を外国政府と約束している場合に適用されると、限定的な解釈がされている。このため、今回の大統領令による免除規定の見直し範囲は定かではない。

(注5)WTO政府調達協定には、日本、米国、EUなど19ヵ国・地域が加盟している。

(注6)ただし、GPAや幾つかのFTAではバイアメリカ条項の適用免除はない。例えば、GPAで米国は、公共交通機関や高速道路のプロジェクトに関する連邦資金に基づく州政府の事業などは免除対象としていない。

(鈴木敦)

(米国)

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