中東・北アフリカでの模倣品対策の促進へ意見交換やセミナー-知財保護フォーラムが官民合同ミッション派遣-

(アラブ首長国連邦、エジプト)

知的財産課、ドバイ、カイロ発

2016年12月16日

 国際知的財産保護フォーラム(IIPPF)は11月12~22日の日程で、アラブ首長国連邦(UAE)とエジプトにミッションを派遣した。両国政府関係機関と意見交換するとともに、UAEではドバイ警察や経済省などで構成される首長国知的財産協会(EIPA)の年次総会で講演を行い、エジプトでは日系企業5社が参加して、アフリカ大陸で初めてとなる政府職員向けの真贋(しんがん)判定セミナーを開催した。

3年ぶり3回目のミッション>

 IIPPF20024月、模倣品の海外における知的財産権侵害問題の解決に取り組む企業・団体が業種横断的に集まり、知的財産保護の促進に資することを目的として設立され、ジェトロが事務局を務めている。IIPPFは中国をはじめ、世界各国の模倣品取り締まり当局と関係構築に取り組んでおり、2013年以来、3年ぶり3回目の官民合同中東ミッションを派遣した。また、ジェトロ・ドバイ事務所は20162月、在UAEの日系企業をメンバーとする中東知的財産研究会(中東IPG)を設立。今回、IIPPFと中東IPGは共同で、一部のドバイ政府機関と意見交換を行った。

 

 20152月にはEIPAのメンバーでもあるドバイ警察とドバイ税関の担当者を日本に招いて模倣品対策セミナーや日本企業との意見交換会を開催するとともに、EIPAIIPPFの間で関係強化のための覚書(MOU)を締結した。MOU締結後はEIPAの年次総会に毎年招待されるなど良好な関係を維持しており、今回のミッションでも、EIPAの年次総会で日本政府と日本企業の代表が、それぞれ模倣品対策に関する取り組みについて講演を行った。また、今回訪問したドバイ警察では、押収した模倣品の倉庫保管料が権利者に課せられ、かつ高額となっている問題について改善を申し入れたところ、ドバイ警察内で問題意識の共有を図るとの話があった。今後の改善を期待したい。

 

UAEのフリーゾーン庁や司法研修所を訪問>

 ミッションでは、UAEのジュベル・アリ・フリーゾーン庁(JAFZA)や司法研修所(ITJSInstitute of Training and Judicial Studies)などの機関を初めて訪問し、知的財産権の保護に際して日本企業が抱える課題についての問題提起や意見交換を行った。JAFZAでは、フリーゾーン内の模倣品の取り締まりは基本的に税関の管轄であり、立ち入り調査などの要望は税関を通してほしい、との説明を受けた。一方で、「権利者側からの情報提供があれば、税関とともに調査・摘発に協力する」との声があった。

 

 UAEで現職の裁判官などに対して研修を行う機関であるITJSを訪問した際は、かねて日本企業が問題視している、商標権侵害者に科される罰金の問題について意見交換を行った。商標権侵害訴訟では、UAE商標法で定められている最低罰金額5,000ディルハム(約16万円、1ディルハム=約32円)が科されるケースが多く、罰金が低額であることから抑止力として機能していないという懸念がある。これに対してITJS側からは、ここ数年は罰金額が増加傾向にあること、より改善を図るには裁判官向けセミナーを開催し問題意識を共有するのが重要であること、などが示された。また、刑事罰や行政罰が科されたケースでは民事訴訟でも勝訴する可能性が高く、民事の損害賠償に限度額はないことから、民事訴訟も併用した方がいいのではないか、との提案を受けた。

 

<アフリカ大陸初の真贋判定セミナーをカイロで開催>

 エジプトでは、1120日に政府職員向けのセミナーをカイロで開催し、政府関係者をはじめ60人以上が参加した。セミナーは午前と午後の2つのセッションに分かれ、午前はエジプト特許庁や商標・意匠局、消費者保護庁、エジプト税関など、知的財産権の保護や模倣品の取り締まりを担う政府機関・部局の幹部が、エジプトの知的財産権保護の現状や課題に関する講演を行った。

 

 午後は日本企業5社が講演者となり、税関職員ら実務者向けに、自社製品の真贋判定ポイントを説明した。IIPPFは中国やASEANなど世界各国で真贋判定セミナーを開催しているが、本セミナーがアフリカ大陸で初めての真贋判定セミナーとなった。

 

 エジプトは人口9,200万人を超え、中東・アフリカ地域最大級の市場として注目される一方で、中国やUAEを経由して流入する模倣品が市場を汚染しているという問題もある。また、スエズ運河を有するエジプトには大きな貿易港もあり、アフリカ大陸のハブとしての機能も有している。世界税関機構が2012年度に発表した「Illicit Trade Report」では、エジプトは世界有数の模倣品「仕出し国」だとの言及があり、模倣品被害の拡散を防ぐ意味でも、エジプトにおける模倣品対策は重要といえる。

 

 真贋判定セミナーでは、現地政府職員に対して、真贋判定チェックの実演も行い、判定のスキルアップにつなげる取り組みを実施した。参加した政府関係者からは「政府機関同士にとっても互いの活動を知る良い機会となった」として、問題意識の啓発につながったとのコメントも聞かれた。また、UAEと同じく、罰金額が低いことについて、政府機関自身が現行の法制度改定の必要性に言及する場面もみられた。模倣品被害に遭っている企業は、今回参加した日本企業5社以外にも多くある。エジプト政府側から同様のセミナーの継続開催を求める意見があったことから、今後も研修などで協力を行いつつ、エジプト税関や警察をはじめとする政府機関のさらなる模倣品摘発が期待される。

 

(池田篤志、後藤昌夫、矢野剛史、櫻井洋介)

(アラブ首長国連邦、エジプト)

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