労使協議のルールを簡素化する法律を公布

(フランス)

パリ事務所

2015年09月02日

 労使協議制度の近代化を図る「労使協議および雇用に関する法律」が8月18日、公布された。企業内労使協議に関する法律の一部を改正し、協議ルールを簡素化する。一方、零細企業に対し、地域労使委員会の設置制度を導入する。経営者団体からは、労務コストの引き上げにつながるとして、批判の声が出ている。

<企業の内情に応じ柔軟な協議運営を目指す>

 労使協議の近代化は、フランス政府が進める労働市場改革の1つ。政府主導による労使交渉の決裂後、政府は関連法律の制定を目指す方針を打ち出していた。818日に公布された労使協議および雇用に関する法律の主な内容は以下のとおり。

 

○労使協議に関する制度

 労働法典により、従業員11人以上の企業は雇用主への苦情申し立てなどを行う「従業員代表」の設置が義務付けられている。従業員が50人以上になると、従業員代表機関として、企業経営について情報提供や諮問を受ける「企業委員会」および労働環境を保護する「安全衛生・労働条件委員会(CHSCT)」を設置しなければならない。

 

 今回公布された法律では、従来、従業員200人未満の企業に対し認められていた「従業員代表」と「企業委員会」の統合措置を従業員300人未満の企業にまで広げた。また、労使協議で合意が得られれば、「安全衛生・労働条件委員会」を統合措置に組み入れることができる。

 

 さらに、組合代表が存在する企業に実施を義務付けている、給与や労働時間などに関する17の労使協議について、議題をテーマ別に集約することで協議の回数を減らすことが可能になった。また、議題によって定められている各労使協議の頻度も、労使合意を条件に一部変更が認められた。こうした一連の措置により、各企業の内情に応じた柔軟な労使協議の運営を目指す。

 

○零細企業向け地域労使委員会

 従業員代表の選出が義務付けられていない従業員11人未満の零細企業については、地域ごとに零細企業が多く加盟する経営者団体および労組が代表者を10人ずつ選出し、合計20人の地域労使委員会を設置する。委員会は零細企業向けに労使協議に役立つ情報提供を行うほか、個別企業の労使協議や従業員の福利厚生などにも関与できる。

 

○零細・中小企業による有期雇用契約

 1回の更新しか認めていない有期雇用契約(CDD)について、中小・零細企業に限り2回更新できるようにする。この措置は20156月にマニュエル・バルス首相が公表した「中小・零細企業向け雇用支援策」に盛り込まれていた(2015年6月23日記事参照)

 

○重労働予防個人口座

 「重労働予防個人口座」とは、重労働と見なされる職務に、被保険期間に換算できるポイントを付与することで、重労働従事者の早期退職を可能にするもの。20151月に導入された(2014年12月26日記事参照)

 

 今回の改正では雇用主が、業界ごとに適用対象となるポスト、職種、労働条件を定めたデータベースを利用することで手続きを簡素化する。

 

 また政府は、同制度の本格適用を当初の20161月から6ヵ月延期し、20167月とする方針を確認した。

 

○就労手当と個人就業口座

 低賃金の労働者に対する複数の手当を、20161月から「就労手当」として一本化し、個人就業口座(compte personnel dactivite)制度を新設。職業訓練可能時間、重労働従事に関わるポイントなどを個人の口座に一括してまとめ、転職しても有効にする。今後、労使協議により具体的な施行方法を決定し、2017年春までの発効を目指す。

 

<経営者団体は地域労使委員会の設置に批判>

 フランス最大の経営者団体であるフランス企業家運動(MEDEF)は、地域労使委員会の設置について、「中小企業には新たな障害となる」と反発を強めている。同団体のチボー・ランクサド中小企業担当副会長は、零細企業に労使協議の法的枠組みは必要ない、との見方を示した。

 

 一方、主要労組の1つであるフランス民主主義労働同盟(CFDT)は地域労使委員会の設置について、「全ての労働者に対する従業員代表制度の適用を求めてきたわれわれには大きな勝利だ」と歓迎した。最大労組である労働総同盟(CGT)は地域労使委員会を「団結権を行使できない労働者には小さな前進だが、まだ改善すべき点が多い」とした。労使協議ルールの簡素化については批判し、労働者の権利拡大を求めるデモを923日に実施する方針を明らかにした。

 

(山崎あき)

(フランス)

ビジネス短信 7bcf32afab24092e