医療機器や医薬品の審査効率化を進める政府当局-東京で医療分野規制セミナーを開催-

(ブラジル)

サンパウロ事務所、米州課

2015年09月24日

 医療機器や医薬品の製品登録審査などを行う国家衛生監督庁(ANVISA)のジャルバス・バルボーザ長官を迎え、9月10日に東京のジェトロ本部で「第2回日本-ブラジル医療分野規制に関するセミナー」が開催された。約170人が参加したセミナーでは、関連企業が高い関心を有する医療機器と医薬品に関する審査手続きの簡素化や両国間の協力、先端医療に関する薬事規制対応などについて情報提供・交換が行われた。ANVISAによる審査プロセスのさらなる改善や規制緩和に向けた取り組みの状況について、ブラジル側から説明があった。

ANVISAが改善に向けた努力を説明>

 ブラジルの医療機器の市場規模は501,600万ドル(2013年時点の推定値:ブラジル医療機器協会)、医薬品は530億ドル(2014年:民間調査会社IMSヘルス)で、いずれも世界で十指に入る規模だ。医療機器市場は民間医療保険の加入者増加に伴い、過去10年間で年平均4%以上のペースで増加しており、医薬品も医薬品援助プログラムによる購入価格低下や薬局プログラムによる薬品販売網へのアクセス向上により、拡大を続けてきた。

 

 しかし、ブラジルの医薬品・医療機器市場に新たに参入を図ろうとしている外資系企業にとっては、ANVISAの人員不足などに起因する適正製造規範(GMP)監査期間の長さや、医薬品の製品登録において日米EU医薬品規制調和国際会議(ICH)ガイドラインと一部異なることなどが参入のハードルとなっていた。

 

 セミナーの冒頭あいさつで、ジェトロの石毛博行理事長は「安倍晋三首相を迎えてサンパウロで行われた20148月のセミナー以降、ANVISAの監査期間が目に見えて短くなったとの声が進出日系企業から聞かれるようになった」とコメントした。ANVISAによる審査プロセスの簡素化や迅速化など企業の利便性を考慮した改革が進んでいることは、ブラジル側参加者の説明により、あらためて示された(表参照)。

 バルボーザ長官は、セミナーの冒頭あいさつや参加者からの質問に対する応答で「ANVISAは改善を続けており、GMP審査後の製品登録の審査期間については日本や他の先進国と比べても遜色ないレベルだ」と理解を求めた。今後の課題として、ブラジルの厳しい経済事情を背景に、ANVISAの人員の大幅増加については難しいとの認識を示しつつ、医療機器の製品登録権の移転を容易にする施策などを2015年中に実施する予定、と述べた(注)。さらに、日本以外にもICHや国際医療機器規制当局フォーラム(IMDRF)などとの国際連携を通じ、規制調和を進めていることを強調した。

 

<予防のための医療機器や医薬品が需要増大>

 セミナーの「両国間の産業界の協力関係強化」セッションでは、ブラジル市場の動向も紹介された。ブラジル医療機器産業協会(ABIMO)のジョフレ・モラエス局長は、ブラジルの人口構成は高齢化が進んでおり、伝染性のある疾患よりも、いわゆる生活習慣病(高脂血症、糖尿病)増加への対応の重要性が今後ますます増えると述べた。ジェトロ・サンパウロ事務所の石田靖博所長も、医療にかかるコストが増加していることから、予防に資する医療機器への潜在需要の増加に言及するとともに、民間保険医療の増加に伴い、病院における医療機器購入に関して、民間保険会社のイニシアチブが強くなっているという流通面での変化を踏まえた機器売り込みのポイントも紹介した。

 

 本セミナーではこのほか、「審査効率化」「QMSGMP(品質管理基準)システムと国際協力」「先端医療に関する薬事規制対応」の3つのテーマについて、ANVISAのほか、日本の厚生労働省や医薬品医療機器総合機構(PMDA)、ブラジル医療機器ハイテク産業協会(ABIMED)のスピーカーが登壇し、両国間の審査プロセスや規制に関する情報交換を行った。

 

(注)ブラジルでは、医療機器の製品登録申請は国内企業のみが実施できる。国外企業でブラジル国内に拠点がない企業は、現地代理店などに申請を依頼することになるが、当該代理店からの製品登録権の移転は代理店の買収しか道がなく、代理店の変更や自社拠点設立の場合は、あらためて製品登録手続きを行う必要がある。

 

(栗原環、竹下幸治郎)

(ブラジル)

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