サービス分野の自由化スケジュールに遅れ-ASEAN経済共同体発足に向けた進捗と課題(2)-

(ASEAN)

バンコク事務所

2015年08月31日

 ASEAN経済共同体(AEC)に向けた統合措置の進捗として、基準・認証分野では、規格・基準の調和や、相互承認に関する共通ガイドライン策定などの動きが、8月23日の第47回ASEAN経済相会合で報告された。一方、サービス分野の自由化は進捗に遅れが目立っており、業種別の自由化の約束表の公開などは2016年以降の宿題となる見込みだ。2016年から2025年までの統合措置の行程表となる「AECブループリント2025」は、2015年11月のASEAN首脳会議への提出を目指して策定作業が進んでいる。連載の後編。

<規格の統一や相互認証手続きの進展を歓迎>

 基準・認証の分野では、技術的障害の除去による市場統合強化を推進する目的で、特定業種分野での規格・基準の統一化や、相互承認手続き、規制調和などの動きが進んでいることを、経済相会合は歓迎した。特に、201411月に署名されたASEAN医療機器指令(AMDD)のほか、ASEAN化粧品指令の実施、安全基準などに関するASEAN電気・電子機器規制スキーム(AHEEERR)などの実施が、具体的な進捗結果として報告された。

 

 例えばAHEEERRの場合、国際規格(IEC規格)に準拠するかたちで電気・電子関連の全121品目の規格が公開されている。当該指定品目について各国が強制規格を導入する際には、統一規格への適合が義務付けられる仕組みだ。また、相互承認に関する進捗では、各国が一部の合意された製品分野で評価試験などを行う機関のリストを公開している。なお現状では、電気・電子機器などの分野は、同リストの指定機関によるテスト結果を各国が相互に承認する段階に進んでいるものの、製品の販売認可や表示については最終的な消費国の個別制度・手続きに従う必要がある。

 

 また、各国向けの基準認証分野の共通ガイドラインとして、「ASEANの基準調和に関するガイドライン」「相互承認(MRA)制度の構築に関するガイドライン」「適合性評価に関する政策ガイドライン」「ASEAN共通食品管理規制および証明手続きに関する共通ガイドライン」などが策定されたことを歓迎した。

 

<包括投資協定のネガティブリストを4ヵ国が提出>

 域内の投資促進・保護、内国民待遇、パフォーマンス要求の禁止などを規定するASEAN包括的投資協定(ACIAASEAN Comprehensive Investment Agreement)に関しては、20148月の経済相会合で修正議定書が署名されている。同議定書は、協定に添付する各国のネガティブリストの対象を削減する枠組みと位置付けられている。今回の経済相会合では、ブルネイ、インドネシア、ラオス、ミャンマーのネガティブリストの提出が完了したことが報告された。新たなネガティブリストは、全てのASEAN加盟国による各国内での批准手続きの完了を経て発効する。

 

<サービス枠組み協定の議定書署名は先送りへ>

 サービス貿易の自由化の進捗では、共同声明の中で「ASEANサービス枠組み協定(AFASASEAN Framework Agreement on Services)の第9パッケージの自由化約束を実施するための議定書の署名に期待する」と報告された。ASEANAECブループリントの下、サービス貿易の自由化交渉において、2015年末を期限として(1128業種のサービス分野を対象に、加盟各国がASEAN域内企業からの出資を段階的に自由化すること(第10パッケージで完了)、(2)第10パッケージの完了時(2015年中を期限)には、全ての業種において70%以上の外資出資を容認すること、を目指している。

 

 他方、20158月時点では、第9パッケージ実施のための議定書の署名が完了していないことが明らかとなっていることから、全ての加盟国が2015年末までに第10パッケージまでの約束を完了し、議定書への署名を行うことは現実的に難しく、2016年以降の課題として先送りされる見通しが強まったといえそうだ。

 

RCEP交渉の実質的な年内完了を指示>

 また、グローバル経済への統合に関する分野では、締結済みのASEAN1FTA(自由貿易地域)に関して、議定書の修正や手続き規則の改定などを通じた運用改善が報告されている。ASEANインドFTAAIFTA)については、サービス協定および投資協定の発効(20157月)に加え、物品貿易分野でも原産地規則などの見直し協議が進展しているとし、AIFTAの物品貿易協定に関しても貿易円滑化や自由化対象品目の拡大について見直し協議を行うことが約束された。ASEAN韓国FTAAKFTA)についても、第3修正議定書が最終合意段階にあること、物品貿易における関税撤廃の対象品目をさらに拡大することなどが確認されている。さらにASEAN中国FTAに関しても特に物品貿易に関する分野で、運用上のルールが段階的に改善されていることが確認された。

 

 交渉中の東アジア地域包括的経済連携(RCEP)に関しては、全ての交渉参加国による市場アクセス交渉に向けた取り組みを歓迎し、交渉中の分野のテキストのドラフト作業進捗を確認した。また、実質的な市場アクセス交渉を早急に開始する認識を共有した。経済相はRCEPの貿易交渉委員会に対し、残る分野の合意に向けた取り組みの加速と、合意済み分野のテキストのドラフトをまとめ、10月に韓国で予定されている第10RCEP交渉会合につなげること、また実質的な交渉を2015年中に完了させることを指示した。

 

 2015年以降のビジョンについては、ASEAN経済統合に関するハイレベルタスクフォース(HLTFEI)が、2016年以降、2025年までの10年間の経済統合の行程表となる「AECブループリント2025」の草案をまとめていることを確認の上、同文書が11月のASEAN首脳会議に正式に提出されることを報告した。

 

(伊藤博敏)

(ASEAN)

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