中豪がFTAに署名、中国側は4つの意義を強調

(中国、オーストラリア)

北京事務所

2015年07月10日

 中国の高虎城商務部長とオーストラリアのアンドリュー・ロブ貿易・投資相は6月17日、オーストラリアの首都キャンベラで中国・オーストラリア自由貿易協定(中豪FTA)に正式に調印した。2005年の交渉開始から約10年を経て、調印に至った。商務部の王受文副部長は記者会見で、中国の対外開放を拡大する決意を示したこと、東アジア地域包括的経済連携(RCEP)やアジア太平洋自由貿易圏(FTAAP)の推進を促すことなど同協定の4つの意義を強調した。

85.4%の品目で発効時に関税撤廃>

 今回のFTAについては、201411月に中国の習近平国家主席がオーストラリアを訪問した際、トニー・アボット首相と会談し、大筋合意に至ったと発表されていた2014年11月18日記事参照

 

 中国商務部は中豪FTAを、「全面的で、レベルが高く、利益バランスの取れたもの」という目標を実現しており、中国がこれまで締結したFTAの中で、貿易・投資の自由化レベルの最も高いFTA1つだとしている。

 

 また同FTAは、双方の輸出額の85.4%を占める品目で、発効時に即座に関税撤廃を実施する。過渡期を経た後に、オーストラリアが最終的に関税を撤廃する品目は、品目総数および輸入額の100%近くにまでなる。中国が関税を撤廃する品目は品目総数の96.8%、輸入額の97.0%となる。商務部は、一般的なFTAの自由化率90%を大きく上回っているとしている。

 

 また、オーストラリアは協定発効時に中国に対して、ネガティブリスト方式でサービス貿易分野を開放する。商務部は、オーストラリアが世界で初めて中国に対してネガティブリスト方式で同分野を開放した国家になる点も指摘している。一方、中国はオーストラリアに対して、ポジティブリスト方式で同分野を開放する。

 

 協定は、これらの分野のほか、電子商取引、政府調達、知的財産権など「21世紀の貿易議題」に含まれる10以上の分野をカバーしているとしている。

 

<対外開放の拡大で中国の決意示す>

 商務部は617日、キャンベラで記者会見を開催し、王受文副部長が記者からの質問に回答した。

 

 王副部長は中豪FTAの意義として4点を強調。第1に、中国が対外開放をさらに拡大する決意を示したことを挙げた。オーストラリアは先進国で、成熟した市場や経済構造、経済管理モデルを持っており、開発途上国である中国が、経済規模の大きい先進国と署名した最初のFTAだとした。

 

 第2に、中国とオーストラリアがRCEPAPECの重要なメンバーだとして、RCEPFTAAPのメンバーには、歴史的背景や経済発展レベルが異なる開発途上国と先進国がともにあるが、開発途上の大国と先進国が調印した今回のFTAは、RCEPないしFTAAPの推進を促すとした。

 

 第3に、両国の経済発展や戦略に推進と深化の作用をもたらすとした。あるオーストラリアの研究機関の調査として、中豪FTAはオーストラリアのGDP成長に0.7ポイント寄与し、中国のGDP成長に0.1ポイント寄与するとの分析を紹介した。

 

 第4に、中豪FTAは両国の物品貿易、サービス貿易、投資およびその他の分野に制度の保証を提供するとした。過去と比較して、これらの分野での双方向の交流レベルが高まっていることから、一連の制度完備が重要という考えだ。

 

<中国民営企業の参入が容易になるとの見方>

 このほか王副部長は、オーストラリアは5年以内に関税を撤廃することから、中国の輸出企業にとって大きなビジネスチャンスがもたらされるとした。また投資分野に関しては、オーストラリアは中国の民営企業の投資について、外国投資委員会の審査が必要となる基準額を24,800万オーストラリア・ドル(約233億円、豪ドル、1豪ドル=約94円)としていたが、協定発効後は107,800万豪ドルに緩和される(一部は例外)と強調した(注)。中国民営企業のオーストラリア市場参入が容易になるとの見方だ。

 

 中国において真っ先に影響を受けるとみられる産業と、それに対する対策について、記者に問われた王受文副部長は、中国とオーストラリアの産業は相互補完関係にあるが、一部の産業では競争関係にあるとした。

 

 その上で、オーストラリアは耕地面積が中国の12,000万ヘクタールに対して4億ヘクタールと大きく、自然資源により優位性があり、農産品の価格競争力があるとした。対策としては、一部の農産品について、中国は15年をかけて関税を撤廃すること、関税割当方式を取ること、牛肉、粉ミルクなどは特別保護措置を講じること、多くの農産品が関税撤廃をしない3%の例外品目となっていること、を指摘した。

 

(注)外国投資委員会の審査基準は、現行の24,800万豪ドルから、米国、ニュージーランドや経済連携協定(EPA)署名済みの日本、FTA署名済みの韓国と同様の107,800万豪ドルに引き上げることで合意した一方で、国有企業からの投資についてはこれまでどおり全ての案件について審査を実施することとなっている2014年11月18日記事参照)

 

(宗金建志)

(中国、オーストラリア)

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